古典がもたらした新境地

トレント・レズナー・アンド・アッティカス・ロス『マンク(オリジナル・ミュージカル・スコア)』
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ALBUM
トレント・レズナー・アンド・アッティカス・ロス マンク(オリジナル・ミュージカル・スコア)

いまや引っ張りだこの映画音楽コンポーザー・チームとなったトレント・レズナー&アッティカス・ロスだが、そのきっかけとなったのはデヴィッド・フィンチャー監督による『ソーシャル・ネットワーク』(10 年)のスコアを手がけたことだった。インターネットのスピード感をデジタルの質感で表現したそのサウンド・デザインは、音楽映画として確実に新しかった。

以来フィンチャーの映画作品には必ず参加してきたふたり。最新作の『Mank /マンク』はしかし、これまでと異なり現代劇ではない。映画史に燦然と輝く『市民ケーン』(41年)とその時代を扱っているので、音楽も当時のムードを再現したものとなっているのだ。これはレズナー&ロスのチームにとっても大きな挑戦であったはずだ。第二次大戦以前のハリウッド黄金期を思わせるジャズ、オーケストラが基調になっているのだが、楽器も当時からあったものだけを使用し音の感触をリアルなものにしている。そうして立ち上がるムードは本物の30~40年代のハリウッド映画音楽のそれだが、しかしふたりはただの物真似にはしなかった。『市民ケーン』をはじめ作曲家バーナード・ハーマンが手がけたスコアを聴きこみ、そこに実験性を見出したそうだが、実際、『Mank~』のスコアにもタイプライターの音をジャズと重ねるなど実験的なアプローチが採られている。音のスタイルだけでなく、その精神性を引き継いだのだ。

これは『Mank~』という映画全体についても言えることで、同作は『市民ケーン』という傑作が生まれた裏事情のみを描くのではなく、そこに作り手の強い意志があったことを伝えるものだ。だからその音楽も当然、レズナーとロスにとって、魂のこもった新境地でなければならなかったのだ。(木津毅)



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トレント・レズナー・アンド・アッティカス・ロス マンク(オリジナル・ミュージカル・スコア) - 『rockin'on』2021年2月号『rockin'on』2021年2月号
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