スティングほど幅広いアーティストたちと共演、デュエットしてきた人はいない。それだけ奥深い音楽的なキャパシティや好奇心を持っているからであり、楽曲への思いや完成度を追究する姿勢が他者からの刺激を求めてもいるからに違いない。そんな彼の共演ヒストリーをまとめた極上の1枚だ。
ボーナスを含む全18トラックのアルバムは、女性シンガー、メロディ・ガルドーを迎え、長年の相棒ギターのドミニク・ミラーとスティングが書いた軽いラテン・タッチが心地よい“リトル・サムシング”でスタート。続くエリック・クラプトンとの“イッツ・プロバブリー・ミー”は映画『リーサル・ウェポン3』に使われたりもしたので広く知られているだろうが、余裕のベテラン・コンビならではの手合わせが心地よい(ソロのギターだけやたら大きくミックスされている)。
以下、とくに気に入ってたり記憶に残っているものを記しておくと、まずライ・ミュージックのスター、シェブ・マミと組んで大ヒットとなった“デザート・ローズ”で、もう20年も前になるのにふたりのしなやかな歌声の魅力は薄れていないし、ワールド・ミュージックという視点で見ても意義は大きな1曲。そして最近交流を深め、18年には『44/876』をリリースしたレゲエのシャギーとの“ドント・メイク・ミー・ウェイト”は、それぞれの持ち味をみごとに反映したシャープな仕上がりで、ここからコンゴ出身、フランスで活躍するラッパー、GIMSとの“レスト”という流れも味わい深い。
異色顔合わせパートでは、シャンソンのシャルル・アズナヴールのナンバー“恋は一日のように(L'amour c'est comme un jour)”は雰囲気たっぷりで良いし、日本映画『阿修羅城の瞳』に提供されたハービー・ハンコックとの“マイ・ファニー・ヴァレンタイン”は、まさに名手ふたりならではの繊細さで、ジャズ・プレイヤーとしてキャリアをスタートさせているスティングにとって夢のコラボだったろう。さらに昨年末に配信されたイタリアを代表するシンガー、ズッケロとの“セプテンバー”はふたりにふさわしく雄大だ。
といった他流試合的なものも楽しいが、やはり個人的に盛り上がり楽しいのはアニー・レノックス(ユーリズミックス)との“ウィル・ビー・トゥゲザー”やサム・ムーア(サム&デイヴ)とやったトラック。またボーナスに入れられたベナンのシンガー、シェラージーとの“イングリッシュマン/アフリカン・イン・ニューヨーク”も素晴らしい締めくくりとなっている。(大鷹俊一)
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