マイルドでソフトなカバー集

ザ・ヴァクシーンズ『コージー・カラオケ、Vol. 1』
発売中
EP

新しいEPは『Cosy Karaoke,Vol.1』と題されている。タイトルから察せられる通り、カバー集なのだ。トルネイドースのインスト曲“Telstar”をとりあげたあたりは、ザ・ヴァクシーンズがかつて影響を指摘されたジーザス&メリー・チェインと共通するサーフ・ロック好みを素直にみせているように思う。だが、それ以外については、けっこう意外性のある料理法になっている。

バリバリのロック・サウンドだったクイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジ“No One Knows”、土臭いバッファロー・スプリングフィールド“For What It’s Worth”(一部でリアム・ギャラガーのカバーという情報をみかけたがそれは同名異曲)は2曲ともソフトに洗練されたアレンジになっている。

他は女性ボーカルの曲が取り上げられているのだが、いずれもオリジナルのほうが、熱が高い。“Funnel of Love”のワンダ・ジャクソンのところどころ尖った声、“High Horse”のケイシー・マスグレイヴスのはっきりした発声、“Fire”のワクサハッチーの高音。彼女たちに比べるとジャスティン・ヤングは声をはらず、マイルドに歌っている。サウンド全体としても柔らかい印象なのだ。

そもそもEPのタイトルにある「Cosy」は、「居心地のいい」という意味だった。なるほど、ゆったり穏やかに聴ける内容である。それぞれ原曲とはかなり異なる響きになっているが、「新たな解釈を加えたぞ」というような、力んだものではない。ザ・ヴァクシーンズは行動の制約が多くなった現在の状況でのちょっとしたお楽しみとして、カバー集を制作したのではないだろうか。ユーモアも感じるこのEPを聴いているとリラックスすることができる。コロナ禍のよい贈り物だ。(遠藤利明)



ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』5月号に掲載中です。
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『rockin'on』2021年5月号