サイケ・ポップな奇跡の2年間

ザ・フー『ザ・フー・セル・アウト [スーパー・デラックス・エディション]』
発売中
ALBUM
ザ・フー ザ・フー・セル・アウト [スーパー・デラックス・エディション]

史上最高のポップ・アート・アルバムは、1967年の『ザ・フー・セル・アウト』だと信じる自分にとって、夢のような全112曲、CD5枚+7インチ・シングル2枚のセットだ。オリジナルのモノ&ステレオ・ミックスはもちろん、アルバム未収録のシングル群、レア・ミックス、さらに67〜68年のスタジオ・セッション、ピート・タウンゼントによるデモと、この時代に残された音源が網羅されている。

アートワークと連動した架空のCMソングや、海賊ラジオのジングルで曲を繋いだこの『セル・アウト』は、次作『トミー』でコンセプト・アルバムを極めるための雛形でありながら、強烈な前衛ポップ・シングル“恋のマジック・アイ”をはじめ、ピートの作曲家としての才能が完全開花した作品でもある。

“オドロノ”から“過ぎし二人の恋”へと至る美しくメランコリックな3曲は、破壊的なピートと表裏一体に存在する繊細な側面の源泉であり、アルバム未収録曲も、自慰を題材にした“リリーのおもかげ”、禁煙ソング“リトル・ビリー”など、奇天烈なテーマをポップに描いた名曲が揃っている。

まだ歪みも少なく、コード進行と鋭いカッティングだけで緊張感を生み出していたピートのギター、そこに抜群の音色とシェイクしまくるビートで切り込むキース・ムーンのドラム、圧巻のベース・フレージングで魅せるジョン・エントウィッスル、そしてハードにシャウトするスタイルを確立する以前の、ソフトなロジャー・ダルトリーの歌声。

モッズな美意識とサイケデリックなポップ・アート感覚が共存するこの奇跡的なバランスはわずか2年で消え、その後のザ・フーは不滅のハード・ロック・バンドへと変貌する。貴重な瞬間を完璧に封じ込めたこのボックスは至宝だ。(片寄明人



ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』6月号に掲載中です。
ご購入は、お近くの書店または以下のリンク先より。


ザ・フー ザ・フー・セル・アウト [スーパー・デラックス・エディション] - 『rockin'on』2021年6月号『rockin'on』2021年6月号
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