ポップのリアル、その最新型

オリヴィア・ロドリゴ『サワー[デラックス・エディション]』
発売中
ALBUM
オリヴィア・ロドリゴ サワー[デラックス・エディション]

“ドライバーズ・ライセンス”の記録的なヒットで旋風を巻き起こしたオリヴィア・ロドリゴだが、勢いの衰えぬままリリースされたデビュー作である。今年もっとも話題のポップ・アルバムとなることは間違いないだろう。ディズニー出身のティーン・スターとしても、ここまで華々しい門出はかつてなかったのではないだろうか。

とはいえ、『サワー』はスーパー・ポップ・スターたる彼女もまた恋に悩める10代の女の子であることを強調するもので、ほとんどの曲でうまくいかなかった恋の痛みが綴られている。そこが何よりも共感を生んでいるのだ。

“ドライバーズ・ライセンス”はドラマの共演者との恋愛沙汰が下敷きになっているのではないかと噂されてゴシップの的になったものの(のちにロドリゴ本人が否定)、そうした実体験の仄めかしは彼女が敬愛するテイラー・スウィフトの手法を思わせる。元カレに対して強い言葉で皮肉を投げつけたり、逆に自分自身の欠点を晒したりと、「いい子ではない私」をあけすけに語るのも現代的だ。テイラーやロードといった先輩にあたるソングライターを良き手本とし、あくまで地に足の着いた表現を軸としている。

音楽的な意味でも語彙が豊富。近年はポップ畑で活躍するダン・ニグロとの密なコンビネーションを軸に、90年代オルタナ・ロックからポップ・パンク、親密なフォーク、シンセ・ポップ、ドラマチックなバラードまでを軽々と渡り歩いてみせている。

それはYouTubeが当たり前のインフラである世代のリアルということであり、ストーリーテリングといいジャンル・ミックスの手腕といい、10年代のポップの成果を当たり前に血肉化している様が末恐ろしい。次の10年のポップの水準を規定するようですらある。(木津毅)



ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』7月号に掲載中です。
ご購入は、お近くの書店または以下のリンク先より。

オリヴィア・ロドリゴ サワー[デラックス・エディション] - 『rockin'on』2021年7月号『rockin'on』2021年7月号

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