バンド名というものは特に意味がなかったりする場合も多いが、「キュウソネコカミ」は彼らの本質を鮮やかに表していると思う。キュウソの音楽は追い詰められた人間の捨て身の一撃、無我夢中の叫びであり、それは猫に襲われた窮鼠のイメージと重なる。そんなことを実感できるのが今作だ。表題曲“私飽きぬ私”で噛み締められるこの不思議な安堵感は、ぜひ実際に聴きながら体感してほしい。冴えない日々の中ですべてを投げ出したくて堪らないのに往生際悪く生きている自分がまだこの世に存在するのは、「その内、少しは何かがましになるかもしれない」という希望が自分の中に残っているからなのでは? そう問いかけてくるかのようなこの曲で繰り返される《不安だ不安だ不安なんす》は、ブツブツと唱えているとなんだか元気になる。近所迷惑も顧みずに大声で歌ったらさらに効力を発揮しそうだ。うまく生きられない人間のボヤキが大音量の演奏を追い風にしながら歌声になった時、絶大な力を生むことを全力で証明してきたのが彼らの活動の軌跡であり、だから大好きなのだと再認識できたのが嬉しい。(田中大)
(『ROCKIN'ON JAPAN』2023年5月号より抜粋)
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キュウソネコカミ『私飽きぬ私』
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