『ROCKIN'ON JAPAN』がお届けする最新邦楽プレイリストはこちら
《ぽっかり空いた 穴を塞いだ/その正体はどうせ、愛だ》という歌詞がいきなり答えのように響いてくる。そこには「穴」があり、それを塞ぎたいと心のどこかで思いながらも、塞がってしまった途端に《どうせ》という余計な気持ちがくっついてくる。《君の好きな人になりたい》という言葉は「なれない」を前提にしているから切なく、案の定ここに描かれるふたりの愛は《君だったのに君じゃなかった》という哀しい結末を迎える。イントロで聴こえてくるパチパチというレコードのノイズからして燻っている感情が散らす火花みたいで、その結末を予言しているかのようだ。ひとりの「I」が誰かと出会い「愛」になり、そしてそれは程なく「哀」を呼び寄せる。10年前、『吹き零れる程のI、哀、愛』というアルバムを作っていたが、3つの「アイ」は今なお分かち難く結びつき、尾崎世界観が音楽を生み出し続ける根っこに絡まっている。夏の終わりに響くシンセストリングスが美しくも儚げなアレンジメントが、どうしようもなく切ない。(小川智宏)(『ROCKIN'ON JAPAN』2023年10月号より抜粋)
『ROCKIN'ON JAPAN』10月号のご購入はこちら
他ラインナップはこちら