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ジャンルにも人格にも時代にもとらわれない楽曲群で聴き手を驚かせてきたソングライターが、TikTokで投稿したくなる曲を目指した同曲は、思惑通りのヒットを記録している。だが彼女がそれだけを重視して制作したかというとそうではない。その象徴が《君は全方向美少女》という一節だ。「全方向美少女」は曲の語り部ではなく、あくまでも「君」である。彼女は元来、俯瞰的な視点で主人公の人物像と心情を物語へ落とし込む力に長けている。睫毛の先まで妥協なく自身を飾り、「おしゃれ」と「あざとさ」を鎧にして自己肯定感を上げ、人生をサバイブする現代の女子たち。そのメンタリティとアティテュードを高い解像度でキャッチーに描いた歌詞は、聴き手を鼓舞する。それを歌謡曲風のレトロなサウンドとメロディに乗せ、軽やかかつ艶やかに歌い上げるというコントラストも小粋だ。一つひとつの発声やアレンジ、展開など細部まで作り込み、楽曲そのもので全方向の美しさを体現する緻密でユーモラスなギミックにも恐れ入る。(沖さやこ)
(『ROCKIN'ON JAPAN』2024年4月号より抜粋)
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