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バンドの原初的な爆発力を感じさせる疾走感溢れる楽曲だが、向こう見ずな猪突猛進、という感じではない。むしろ、この曲でミセスは「私たちは何を連れて行かなければいけないのか?」と歌っている。それは過去であり、痛みであり、未完成な自分自身である。そのうえで彼らは「受け入れたい」という気持ちを言葉と音に変換し、「見て見ぬふり」とは違う本当の自分への肯定を探し求める。自傷ではなく、痛みや弱さによって守られる自分を見つけようとする。変化していく曲の展開に呼応するように、歌詞もまた願い、弱み、自己嫌悪、気づき、決意……と、湧き上がる様々な心の形を捉えて変化する。《愛してみる》と《愛してる》と《愛せてる。》はひとつの曲の中で同居する。言葉と言葉の間の余白に、人が己の弱さと向き合う時の真摯な眼差しが滲む。「聴き手を肯定してやろう」なんて偉そうな態度ではなく、「どうすれば、この人生を肯定できるのだろう?」という問い自体を私たちと共有しようとしている。だから、信頼できる。(天野史彬)(『ROCKIN'ON JAPAN』2024年6月号より抜粋)
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