マーは飛び道具ではない

ザ・クリブス『イグノア・ジ・イグノラント』
2009年09月02日発売
ALBUM
ザ・クリブス イグノア・ジ・イグノラント
「ジョニー・マー入りました」と居酒屋で追加のつまみを注文したみたいな軽さで伝わったクリブスからの「お知らせ」。不安に思った人もいたはずだ。クリブスといえば3兄弟の絶妙なコンビネーションである。いかにマーといえども、そこにのこのこ入っていって大丈夫なのか。だが、届いたアルバムの1曲目“ウィ・ワー・アボーテッド”のイントロでやたらハリのあるギター・サウンドが聴こえてきて、それがハード・ロックみたいなリフに発展していくところで、思わずプレイヤーの一時停止ボタンを押した。何この緊張感。ボーカルが入ると紛れもなくクリブスなのだが、曲のテンションとスピード感を支えているのは明らかにこれまでのクリブスにはなかった「この」ギターだ。やはり今回のアー写の違和感のなさは伊達ではなかった。

とはいえ、この成長は予期できたものでもある。デビューから前作までの軌跡は、ざっくりと言ってしまえばタイトなアンサンブルを身に着けることで持ち前のポップさの可能性を更に押し広げるというものだった。その成長曲線はここでさらに上向いている。そこに、ジョニー・マーという「補強材」が加わったことで、さらに目に見えやすくなっているのだ。アレックス・カプラノスのプロデュースのもと明確なポップ志向で作られた前作に較べると若干フラットな音になっているが、決まるべきところでビシっと決まる引き締まったサウンドは、今回も出来のいいメロディラインの土台としてじつにうまく働いている。“セイヴ・ユア・シークレッツ”の控えめなギターの重なりにスミスの幻影がちらっと見えたが、多分気のせい。(小川智宏)
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