これがロック・バンド

パール・ジャム『バックスペイサー』
2009年09月30日発売
ALBUM
日本ではちょっとねじれたグランジ史観があったので、ずっと過小評価されているように感じてきたのだが、そのライブを観れば一発で分かる通り、そもそもパール・ジャムはロック・バンドとして破格の存在だ。

低音を軸にあれだけのメロディを紡ぐことができるカリスマ的なシンガーがいて、ストーン・ゴッサードとマイク・マクレディというキャラクターも音楽性も違う二人のギタリストがキャリアの長さならではの安定感のあるギターを弾き、ジェフ・アメンは繊細な楽曲からラウドな疾走ナンバーまでベースラインを巧みに乗りこなしてきた。ドラマーだけが交代してきたが、元サウンドガーデンの現ドラマー、マット・キャメロンも加入してから既に11年が経つ。そして、このバンドの最大の強みは全員がソングライターであることだ。キャメロンはともかく、他の4人は全員バンドのキャリアを決定付ける名曲をそれぞれが書いてきた。正直こんなバンドはいない。

けれど、彼らはずっと自分達の実力を最大限に発揮することができなかった。またあの嵐の中に巻き込まれるのではないか。また踏み絵を踏まされるのではないか。また十字架に架けられるのではないか。そうした思いが去来したことは想像に難くない。しかし、やっとだ。前作も素晴らしかったが、ここまで風通しがよく楽天的なパール・ジャムはいつ以来だろう。フォーキーな一筆書きのアイデアが、この5人で演奏した途端にロック・ソングになるバンドの妙技。とりあえずここに戻ってきたことを祝福したい。(古川琢也)