ひと夏の青春

ブラー『ノー・ディスタンス・レフト・トゥ・ラン [ア・フィルム・アバウト・ブラー]』
2010年02月17日発売
DVD
ブラー ノー・ディスタンス・レフト・トゥ・ラン [ア・フィルム・アバウト・ブラー]
改めて言うまでもないことだが、本作はディスク1→2の順序を必ず遵守して観て欲しい。彼らが再結成に至る過程でいくつもの葛藤を乗り越え、良いことばかりではなかった過去を振り返り、傷を癒し、4人の絆を取り戻していった過程を、ディスク1に収録されているそのドキュメンタリーを観ないことには、ディスク2に完全収録されているハイドパーク公演が何故これほどまでに感動的な内容になったのかを正確に理解することは不可能だろう。

2009年7月、のべ10万人を集めて行われたブラー再結成ツアーのハイライト、ハイドパーク公演。彼らが国民的バンドとして普遍的な地位を維持し続けてきた証拠のように、集ったオーディエンスは予想以上に若い。対してステージ上の彼らはいつになく緊張しているように見える。デーモンなんて終盤、殆ど感極まっている。デーモンは傷つくのが怖かったのだと思う。ブラーという名の青春を、彼らとファンの共有財産であった青春を壊したのは自分だという自責の念もあっただろう。しかし、そんな彼の横にはグレアムがいる。自身の不在時のナンバー“アウト・オブ・タイム”を弾き、彼を励ますように“テンダー”でコーラスを入れるグレアムがいる。和解を超えて、それはもはや友情と呼んでいい光景だ。本DVDは、ブラーが自らの青春を奪還した一日の記録である。そして青春には必ず終わりがあるように、ブラーが本当の完結を迎えたことも伝える歴史的資料だ。「君の夏を楽しんで」、そう言い残して彼らはステージを降りる。今度こそ本当に、ブラーはステージを降りたのだ。(粉川しの)
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