開放された秘密基地の音楽

tacica『神様の様子e.p.』
2010年04月07日発売
SINGLE
tacica 神様の様子e.p.
これほどまでに文脈が見えないバンドも珍しい。かといって、特に難しい言葉が使われているわけではない。一行一行の意味は明確に掴み取れるのに、段落単位になると途端にわからなくなる。歌詞だけでなく音に関してもそうで、例えば表題曲“神様の椅子”において、ドラムの手数が激しく増減する様子などは、通常の流れではなかなか読み切れない。しかしその文脈の掴めなさを、中心をはぐらかすための迂回と捉えるのは早急で、実はその逆なのだと思う。例えば少年は近道が大好きだが、その多くは実際には遠回りである。しかしその過程に現れる発見の連続が時間を忘れさせ、それを近道と感じさせるのもまた事実。彼らにとっては同じ道を行くことが遠回りであり、毎日違う道を通ることが近道なのである。2ndアルバム『jacaranda』で手に入れたグルーヴはさらに自由度を増し、そこに乗る歌メロはかつてなくポップに開けている。その絶妙な組み合わせが聴くたびに異なる風景を立ち上げてくるが、これまで内向的なイメージの強かった歌に希望的な感触が現れてきたことで、その音楽性はグッと明快になっている。(井上智公)
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