誰もこの男を止められない

ザ・デッド・ウェザー『シー・オブ・カワーズ』
2010年05月26日発売
ALBUM
ザ・デッド・ウェザー シー・オブ・カワーズ
ジャック・ホワイトは本当にこのバンドをやっていて楽しくて仕方がないんじゃないだろうか。ジャック個人ではどうすることもできない諸事情を抱えて停止しているホワイト・ストライプスを尻目に、1年足らずのインターバルで完成してしまったデッド・ウェザーの新作である。とにかく単純にドラムを叩くのも楽しいんだろうし、ある意味「無心」とでも言うべきか、コンセプトや批評的観点から完全に自由な場所で迷いなく振り回されるこのバンドのグルーヴと溢れだすパッションは、結果的に自由裁量下の真正の才能の何よりの証明になってしまっている。前作があらゆる種類の黒を塗り重ねた「複雑なモノトーン」の一枚だったのに対し、本作は高性能エンジンを搭載した黒光りするスーパーカーのように極めて動的でアグレッシブなアルバムで、アリソン・モシャートの色は薄まっている。つまり、わかりやすいブルーズ&ガレージのアイコンを彼らは最早必要としておらず、何よりも動力、器楽的な快感原則が前に押し出された格好だ。“ザ・ディファレンス・ビトウィーン・アス”のようにジャックがドラマーである必然がはっきり刻まれた楽曲もあれば、 “ハスラー・アンド・カス”“アイム・マッド”のようにインプロヴィゼーションから生まれたかに思えるツェッペリン的楽曲もふんだんに収録されている。ツェッペリンの場合はペイジとジョンジーとボンゾがそこには必要だったが、このバンドはジャックほぼ一人の力でそれをやり遂げてしまっているのが恐ろしい。今、私達はとてつもない才能と同時代を生きているんだってことを改めて痛感させられる一枚。(粉川しの)
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