ただし、このワイルドさは、若さゆえの無軌道なものとは質が違う。今作から伝わってくるのは、かつての矢沢自身のような何かを渇望する青年の顔ではなく、不敵なほどの自信をたたえた大人のそれだ。どんなに激しくロックしても、アルバムの随所で、いい意味での余裕と遊び心が生きている。だから、今作のツイスト&シャウトはとても風通しがよい。
矢沢永吉は超一流のパフォーマーであると同時に、卓越した作曲家・アレンジャーであり、ビジネスを含めた音楽活動のカジを巧みに取るプロデューサーでもある。レーベル設立後の2作では、そうした「矢沢スキル」のすべてが大車輪でパワーを発揮しており、その結果、前代未聞のアーティスト像が現出しつつある。動物的な嗅覚で、音楽シーンに「最適解」を見出す60歳のロックンローラー。当分は敵無しの勢いである。(神谷弘一)