コーラルの未来はいま、明るい

ザ・コーラル『バタフライ・ハウス』
2010年08月25日発売
ALBUM
ザ・コーラル バタフライ・ハウス
なぜかは分からないけれど、デビューした当時から、コーラルはすぐに解散すると思っていた。ビルが脱退してベスト盤がリリースされたときは、さすがにかなり心配したものだ。しかし、それは杞憂だった。いまの彼らが非常にいい状態にあるということは、何よりもこの6枚目のアルバムが物語っている。本作は、コーラルの過去のどのアルバムよりも前向きな1枚である。

分かりやすい劇的な変化などというものは起きていない。相変わらず時代から隔絶された彼らの趣味性が爆発している。しかし、それぞれの楽曲のフォーカスの合い方が格段にビビッドになり、向かうべき方向がはっきり見える、そんなサウンドになっている。ぐるぐると円環を描くようなサイケデリアを音にしてきた彼らが、今作では明確なゴールに向けて音を重ねていくような、まったく違ったメカニズムのドラマを描いているのである。タイトル・トラックなどはその最たる例だろう。アルバム全体としても、多層的な展開が意識的に作られていて、ひとつの物語として聴ける。これはプロデューサーのジョン・レッキーの手腕によるところも大きいだろうが、それ以上にバンドのムードの変化の現れだと思う。過去とも未来とも無関係に独立独歩の道を歩んできた彼らが、おそらくは初めて、未来に向けて開けた展望を音に込めているのだ。その結果、このアルバムは、彼らには似つかわしくない言葉だが「明るさ」すら感じさせる。お得意のマイナー・コード進行でも、前作や前々作にあった陰鬱とした暗さは感じない。解散の心配は、もうしなくてよさそうだ。よかった。(小川智宏)
公式SNSアカウントをフォローする

人気記事

最新ブログ

フォローする