物語を通じて現実に触れたバンド

椿屋四重奏『BEST MATERIALS』
2011年04月06日発売
ALBUM
椿屋四重奏 BEST MATERIALS
今年1月に解散した椿屋四重奏のベストアルバム。全キャリアから選ばれた16曲に加え、初回限定盤にはデビュー前の自主制作音源を10曲収録している。

椿屋四重奏は一貫して「フィクションとしての音楽」を追求したバンドだった。文語的なフレーズを多用した歌詞、端正に構築されたサウンド、そして隣のお兄さん的な親しみやすさとは程遠い、テンションの高いボーカル。しかし彼らは、現実に背を向けておとぎ話をつづったわけではない。むしろ逆で、目の前の生々しい現実を歌うために、あえて「目に見えていること」を括弧に入れ、ゼロから物語の土台を築き、そこで登場人物たちに真実を語らせようとしたのだ。

その成果は3枚目の『TOKYO CITY RHAPSODY』以降、如実に表れていた。フィクションを通して現実の手ごたえを得るという回路が、多彩な楽曲の中で確立しつつあったからだ。今回バンドの歩みが止まってしまったことは残念であるが、椿屋四重奏が提示した音楽のあり方はこれからも残る。中田裕二にはその特異なソングライティングをさらに突き詰めてもらいたいと思う。(神谷弘一)
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