異質ゆえに本質

プレフューズ73『ジ・オンリー・シー・チャプターズ』
2011年04月16日発売
ALBUM
プレフューズ73 ジ・オンリー・シー・チャプターズ
エレクトロニック・ミュージックでは目的と手段が転倒することが多い。新たに登場したテクノロジーや方法論(手段)が、作り手の意図(目的)を超えて、大きなイノベーションを実現することがある。ボーカル・チョップといった手法が話題となったプレフューズ73も、そうした文脈で語られることが多かった人だ。けれど、10年以上に及ぶスコット・ヘレンの足取りを顧みると、むしろ違った印象がある。自身の血筋に焦点を当てたサヴァス&サヴァラスをはじめ、彼の創作活動はそのパーソナリティと音楽への姿勢こそが原動力となってきた。結果、それはフライング・ロータスの神秘にまで繋がる系譜を生むことになった。本作もまさにそんな彼の人間性が窺える作品だ。

最新作のテーマは女性。今年1月に亡くなったブロードキャストのトリッシュ・キーナンをはじめ、7人の女性ボーカリストが参加した本作は、ほとんどビートのない、サウンドスケープ主体の作品となった。スコット本人も異質な作品と語っているが、違和感はない。この女性的なたおやかさは彼の表現がずっと見据えていたものだ。それが露わになった本作は素晴らしい。(古川琢也)
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