しかし、本作を何度も聴くにつれ、よくあるキャリアを重ねたバンドの作った良識的な地味渋作とも、どうも思えないのだ。3作連続でプロデュースを手掛けたブレンダン・オブライエンの手によってレコーディングされた音は実に美しい。ロック・バンドをロック・バンドとしてスタジオで録ることの粋を極めたような音作りだ。それに呼応するようにバンドは、ドラムがリズムを刻み、ベースがアンサンブルを支え、その上にやわらかなアルペジオとサウンドスケープを乗せるだけでロック・サウンドの骨格を作り上げている。マイクの唸りを上げるオーバードライブのギターを聴けるのは僅かだが、そんなことを問題とせずに、今のインキュバスはロックを立ち上げようとしている。この体温こそ現在の彼らのリアルとして響いてくる。
いわゆるニュー・メタルのシーンにおいて頭角を現した彼らだが、その多岐に亙る音楽的リファレンスとナイーヴな佇まいは、浮いていた存在だった。本作の“達成”は最初から彼らのDNAに組み込まれていた気がしてならない。フジでこのインキュバスを7年半ぶりに観られるのが楽しみでしょうがない。(古川琢也)