綱渡りを承知で

インキュバス『イフ・ノット・ナウ、ウェン?』
2011年07月06日発売
ALBUM
インキュバス イフ・ノット・ナウ、ウェン?
本作を聴いて、大人になったと片付けるのは簡単だろう。インキュバス待望の5年ぶりの新作は、彼らのディスコグラフィーのなかでも最も静謐さを湛えた1枚となった。驚くファンも多いと思う。アルバムに同封されるブランドン自身による長いライナーノーツを読めば、それがバンドの意識的な判断だったことが分かるはずだ。レコーディングでは「経済」「気品」「空間」「抑制」といった言葉がやりとりされていたという。
 
しかし、本作を何度も聴くにつれ、よくあるキャリアを重ねたバンドの作った良識的な地味渋作とも、どうも思えないのだ。3作連続でプロデュースを手掛けたブレンダン・オブライエンの手によってレコーディングされた音は実に美しい。ロック・バンドをロック・バンドとしてスタジオで録ることの粋を極めたような音作りだ。それに呼応するようにバンドは、ドラムがリズムを刻み、ベースがアンサンブルを支え、その上にやわらかなアルペジオとサウンドスケープを乗せるだけでロック・サウンドの骨格を作り上げている。マイクの唸りを上げるオーバードライブのギターを聴けるのは僅かだが、そんなことを問題とせずに、今のインキュバスはロックを立ち上げようとしている。この体温こそ現在の彼らのリアルとして響いてくる。
 
いわゆるニュー・メタルのシーンにおいて頭角を現した彼らだが、その多岐に亙る音楽的リファレンスとナイーヴな佇まいは、浮いていた存在だった。本作の“達成”は最初から彼らのDNAに組み込まれていた気がしてならない。フジでこのインキュバスを7年半ぶりに観られるのが楽しみでしょうがない。(古川琢也)
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