愛で産まれたスパイダー 

木村カエラ『8EIGHT8』
2011年10月12日発売
ALBUM
木村カエラ 8EIGHT8
人として女性としての幸せを得たことで、アーティストとしてどうありたいかが明確になったのだろう。例えば母性がそのまま歌になるタイプの女性シンガーもいるが、木村カエラはそうでなくオンとオフをセパレートすることで更にエッジを効かせた唯一無二の存在感を今作『8EIGHT8』で示す。まさに宣戦布告だったシングル曲“喜怒哀楽 plus 愛”のアグレッシヴさを引き継ぎ、“Make my day!”や“KEKKO”で、色んな憶測も斜めの視線も蹴散らすような大きな生命力に満ちたバンド・サウンドと、スケール感を増したヴォーカルで豪快に魅了。絶大なる人気の陰で実はみんなの反応が気になっていたり、取材中に泣いたりしていた臆病なカエラはもういない。タイトル曲“8EIGHT8”だって末広がりの幸運という意味ではなく、みんなの心のモンスターを食べ尽くすスパイダーという意味で歌われていることもアーティストとしての覚悟を思わせる。多数のミュージシャンとコラボしてきた実験の季節を終え、人としてたくさんの愛に触れた彼女がアーティストとしての自分を自ら愛してクリエイトした、パワフルで、やはり幸せな作品である。(上野三樹)


より優しく、より強く

木村カエラは、可愛くてかっこいいポップアイコンとして日本中で広く愛されているのとは裏腹に、少しでも彼女の音楽に向き合ったリスナーには、無防備なほど自身の怒りや悲しみや孤独を打ち明けてきた人だ。その表現者としての裸っぷりにいつも心を揺さぶられるのだが、それにしてもこの『8EIGHT8』のエネルギーはすごい。母親になったこと、そして震災後初のアルバムであること。それらが本作をいつも以上に大きな愛が溢れる作品にすることは当然だと思うかもしれないが、そんな生易しいものじゃないのだ。ここにはより強い意志で、全身全霊で闘うカエラがいる。でもその闘いに、一寸の迷いもない。それがこのアルバムを決定的なものにしている。自らを蜘蛛になぞらえ、自己犠牲ともいえる献身的な愛を歌う“8EIGHT8”には、「守るもの」ができた人にしか歌えない、悲しいほどの強さと美しさが輝いている。“orange”の晴れやかに響くヴォーカルも感動的だ。《キミもボクも 一人じゃない》。それが今、苦しみも喜びも全て知っているカエラが、最も歌いたい答えなのだろう。カエラにしか歌えない歌が極まった、愛に満ちた作品だ。(福島夏子)
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