孤独の果てで君と浮かぶ

luki『ゼロの森』
2011年11月09日発売
ALBUM
luki ゼロの森
自分の幼い頃の記憶をひもといていくと、ひどく混沌としている時期がある。たぶん4~5歳くらい、「自分がどこからやってきたのか」という問いが急に胸の中に分厚い雨雲のように湧き上がって、同時期に奇妙な夢を繰り返し見た。その夢の記憶と現実の記憶の繋ぎ目がきわめて曖昧なのである。そして、自分の日常のバランスが崩れるような出来事が起きると、その混沌とした記憶は、再び古傷が腫れ上がるように鮮明になる。しかしそれは不思議と、恐怖を感じる器官を失くしてしまったような安息感をもたらす。

lukiのミニアルバム『ゼロの森』に収録されている7曲は、メロディもサウンドも言葉も歌声も、そしてトレードマークのハーモニカソロも、その混沌の記憶に似ている。それではあまりに個人的な感想だと言われてしまうかもしれないが、聴き手それぞれの自分にしかわからない極めて個人的な「ある感覚」を呼び覚ます力をlukiというアーティストは持っているのだ。その音楽の力は呪術的だが、孤独の向こう側を逃げずに覗き込み続ける、人としての強さがその類まれなるソングライティングを支えている。(古河晋)
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