USではジャンル問わず去年の年間ベストで上位を獲りまくっていた怪物アルバムの国内盤(やっと出た!)で、緻密すぎる情報量のラップのきちんとした邦訳を読めるのが嬉しすぎる。そこには「ギャングの街の優良児」=ケンドリック・ラマーが、同居するオカンの車を拝借してちょっとビッチな彼女に会いに行った道中のヤバい顛末と彼の生い立ちが絡みあい、やがて人間としての真っ当な成長に辿り着く一篇の物語が、細密なリアリティで描かれている。それが単なるオルタナティヴではなく、ギャングスタ・ラップ発祥の地コンプトンを全く新しい角度からレペゼンしつつ、西海岸ヒップホップのネクスト・レベルを提示するサウンドになっているのが、この作品の革新性である。プロデューサーはドクター・ドレーだが、そこにはチルウェイヴ以降の憂鬱な浮遊感も濃厚に漂っていて、ビートとトラックの完成度は何回聴いても、何回聴いても素晴らしい。彼がエミネムのようなポップスターになることは絶対ないが、「個」の表現としてのラップというアートフォームで、これを超える完成度の傑作は、もう10年ぐらい出ないかも。(松村耕太朗)