それこそ僕たちひとりひとりから人殺しや総理まで含め、この時代に生きる個人を「夢」というキーワード越しにひとつの壮大な叙事詩へと編み上げていく野田洋次郎の詞世界。エレポップ風のハイブリッドなアンサンブルが、やがて聴く者すべてをゴスペルのような荘厳さとやわらかな高揚感の果てへ導いていく、透徹の極みのようなサウンドスケープ……およそロック・バンド的なる衝動感やダイナミズムとはまったく別の次元で、至ってロジカルに、かつ厳然と人間の業の深さと愛しさを描き切ってみせる“ドリーマーズ・ハイ”。《その声に心を足すと言葉に/言葉に愛を足すとたちまちに/あぁ 全てを足して僕たちで/割れば世界に》というシンプルなフレーズで、ミクロとマクロの境界線を消し去った壮大な地平に僕らを放り投げてみせる幕切れの鮮やかさには思わず慄然とするし、鋭利な批評性と惜しみない博愛を両輪として日々彼らが進歩し続けていることの意味が熱く、誇らしく胸に響く。一転してアシッド・フォーク的な音像とともに不器用で退廃的な愛を歌う“シザースタンド”も震えるほどに美しい。(高橋智樹)