愛されたい。こんなにも愛されたい。でも、愛してもらえない。そんな私の不幸をどうすればいいのか。〝コンドームをつけないこの勇気を愛してよ〟や〝愛とか夢とか恋とかSEXとか〟といった一見アバズレ的なさめざめ=笛田さおりの歌を支えるのは、そんな普遍的なオンナの生き方の問題である。本当に解放されたいのは、恋愛相手とのビミョーな距離感だけではなくて、そんなふうにしか生きられない自分自身だ。もしもひとりで、気高く美しく生きていけたなら、どんなにかっこよくて幸せだろう。でも、やっぱり寂しいし、誰かといたいという欲望を断ち切るのは、簡単なことではない。そういう「弱者ロック」のある種の到達点として、このアルバムは夜な夜な誰かを救うだろう。J-POPから80年代風ハードロック歌謡曲、ノスタルジックな昭和歌謡ポップまでサウンドの意匠は様々だが、込められた思いははっきりひとつ。そして、弱者や被害者であることが存在と気持ちのピュアさを保証するという構造から、今後彼女の表現がどうはみ出していくのか。その可能性にもぜひ期待したい。(松村耕太朗)