名古屋発ピアノトリオ・Qaijff、渾身の最新作『snow traveler』を語る(2)

曲単位で見た時に、伝わらなかったら意味がないから、思い切って振り切れた感じです

――歌は、森さんのボーカルが少し大人っぽくなったというか、しっとり切ない感じがダイレクトに伝わる、ポップシーンの中で勝負するための曲だと感じました。

森 今までのQaijffではこんなに露骨な失恋ソングはなかったので、歌い方ひとつで捉えられ方も違うよなとは思いました。大人っぽいって言ってくださったんですけど、それは意識しましたね。あんまり感情的になりすぎない、凛としてるけど弱い部分もあって強がってる女性、みたいな。なんとなく自分の中でそういう主人公を意識して歌っている曲です。

――森さん自身が、この主人公に近い部分がある?

森 男目線と女目線ってやっぱり違って、それがまた面白いなと思います。たぶん、私が失恋ソングや恋愛ソングを書こうと思って書いた曲と、内田が女目線で書いたものとではやっぱり違うんですよね。男の内田が「私」という主語で書いた歌詞を、女の私が歌ってみて、自分だったらこうは思わないなっていうところも正直あるんですけど、そこが逆に面白いっていうか。昔なら「私はこう思わないからこれは歌いたくない」みたいなところもあったんですけど、最近は逆に面白がれますね。もちろん共感できる部分もあるし。

――12月で、冬で、失恋ソングっていうのは、ポップミュージックの王道的な方法だとも思います。逆にQaijffがそれをやるのって、「攻め」なんじゃないかとも思ったんですよね。この路線をあえて選択したっていうこと自体が。

内田 たぶん、聴いてくださる人たちは、チャレンジしたなって思うかもしれないですけど、作曲者としては単純にやりたかったことがこれで、それだけのことというか、流れの中でそこにたどりついた感じなので、すごく大きな一歩を踏み出したっていう感じではないです。

森 そうだね。私がシンガーソングライターとして活動していた頃は、「これは自分の曲!」みたいな、すべて自分丸出しな、めっちゃ具体的な歌とかもやっていて。だけどこのバンドを組んで、私は変わりたかったんですよ。別にその頃の自分を否定するわけじゃないけど、シンガーソングライターとそのバックバンドっていうふうには見せたくなくて、イメージを変えたかったんです。だからそういう曲は減っていったし、最近はここまで具体的な恋愛の曲ってなかったので、内田がこの曲を持ってきた時に、私の中ではちょっと「挑戦」だなって思ったんです。だけどやってみたら全然「挑戦」でもなくて、もともと私の中に持ってたものだし、逆にQaijffの音楽が広がったんだなと思います。

三輪 最初はデモの段階で、歌詞も今と全然違ってて、大きい視点で描きたいのか、ひとりの人に入り込んだような歌詞にするのか、そのせめぎあいを感じていて。でもこういう失恋ソングを歌うのであれば、もっと踏み込んでいいんじゃないかと僕は思ったんですよね。

森 そうだ、確かに幸宏がまずそうやって言ったんだよね。あまりにも具体的な歌詞に対して、最初は迷っていて、今までの私たちからしたらどうなんだろうって。そしたら「もっと突っ込んでいったほうがいいでしょ」みたいな。だよね? 今思い出した(笑)。

内田 こういう曲をやりたい気持ちはすごくあったんですけど、ただどれだけ踏み込んでいいのか、みんなにとってはどうなのかっていうのがすごく気になって、「どう思う?」って訊いたら幸宏がそう言ってくれたんです。確かに曲単位で見た時に、伝わらなかったら意味がないから、思い切って振り切れた感じですね。

Qaijffではすごくアンバランスな感じになることもあったけど、最近はしっくりくるところに収まってきた

――カップリングの“universe”は、これまたポップミュージックのいいところを全部詰め込んだような強い曲ですね。やはりQaijffとして「ポップ」ということに関して意識が強くなっている気がします。

内田 ポップミュージックって広い定義ですけど、やっぱり好きなんです。それがバンドにとっては導かれた先にあったという感じで、コンセプト的にそういうバンドでありたいっていう気持ちがあるわけじゃなくて、ほんと、流れでたどりついた先がここだったっていうか。

森 結成当初の曲は、ポップとは言い難いものもたくさんあって――もちろんそれも好きだし、自分たちはすごくかっこいいと思ってるんです。一方でポップな曲を作んなきゃって、意図的に作った曲もあって。実際お客さんに「あの曲好き」とか言われるんですけど、どこか自分たちの中では義務感っていうか、本当に心からそれを楽しんでやってるとは言い切れないものもあって。それが今は、“universe”にしても、メロはポップなんだけど、いい具合に遊べてるっていうか、そういうやり方をつかんできたとは思います。無理にポップにしようっていうことではなくて、いいバランスで楽しめてます。

三輪 同感です(笑)。

内田 僕らの音楽遍歴で言えば、幸宏がメタルとかラウドが好きで、森も清春さんが好きだったり、僕はTHE BLUE HEARTSが好きでバンドを始めたわけで。普通なら、がっつりロックバンドになるはずなんですよね。でも、ロックバンドっぽさって、生き様みたいなものを曲の中で直接的に歌うことだとしたら、俺らはロックバンドというより、3人でやっているけど、ポップスミュージシャンなんじゃないかなあと思ったりします。

森 私は、だったらもうどっちでもいいじゃんって思っちゃう(笑)。お客さんとかほかの人が聴いて、Qaijffってすごいロックだねって言う人もいれば、ポップなバンドだねって言う人もいる。本当にそれでいいよね。関係ないもんね。

――三輪さんは?

三輪 それこそ以前は、昔やってたバンドとかで自分に根付いてるものがあって、Qaijffではすごくアンバランスな感じになることもあったんですけど、最近は、ちゃんとしっくりくるところに収まってきた感じがすごくあって。その結果が今の方向性なんだろうなって感じています。とにかくいろんなことをやりたい3人だと思うんですよね。結果的にそれを表現できるのが、ポップミュージックなんじゃないかなと思います。

――2016年はQaijffにとって充実した一年でしたね。

森 バンドを始めた当初には夢みたいだって思ってたことが、ひとつひとつ現実になっていって、その先の夢も夢じゃなくなってきて。改めて、このバンドでひとつひとつのことをクリアして、成果を出したいと思って活動してきた2016年だったなあと思います。

三輪 充実してたっていうよりも、変わってきているっていうほうが近くて、それもすごくいい方向に変化していってるなと思います。

森 環境? 心境?

三輪 環境も心境も。バンド自体が変化の年で、今年はまだ終わってないですけど(笑)、そんな変化が出てきた年だったなって思います。

内田 ライブの本数は昨年より減ったけど、去年はやっぱり模索してた分、本数も多かったんだなって思います。今は自分たちが表現したいことや伝えたいことが見えていて、曲作りに割く時間も増えたし、バンドがほんとに確信に迫ってきてるっていう感覚はありますね。

提供:KAIROS

企画・制作:RO69編集部

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