メジャー1stアルバム『はなしはそれからだ』とその後のワンマンツアーを経て、植田真梨恵はシンガー/ソングライターの両面で、大きくポップの核心に踏み込んだようだ。8月12日にリリースされる3rdシングル『わかんないのはいやだ』に収められた3曲は、そのことを明確に告げている。弾けるようなビート感とメロディに乗せて《わかんないのはいやだ/わかったふりもいやだ》《わからなくて問題ない/そばにいるよ 話してよ》と呼びかける彼女の歌はそのまま、聴き手とより揺るぎなく向き合おうとするモードをリアルに反映したものだし、オルビス化粧品「CLEAR」イメージソングとして書き下ろした“クリア”のセンチメンタルな輝度も、17歳当時に書いたという弾き語りナンバー“夏の日”のシンプルな訴求力も、植田真梨恵の表現の奥行きと色彩感を十分に物語っている。彼女の「今」に改めて迫ってみた。

インタヴュー=高橋智樹 撮影=若田悠希

リスナーのみなさんを信じていていいんだなって思わされたというか。「わかりやすい言葉で」って気をつけすぎなくても、ちゃんと伝わっていくよね、って

──“わかんないのはいやだ”の《君の気持ちを/わかんないのはいやだ/わかったふりもいやだ》っていうフレーズを聴いて、「あ、植田真梨恵は自分自身を言い当てたなあ」と思いまして。

「はい(笑)」

──たとえば、その《君の気持ち》を「目の前の現実」だったり「今自分が置かれてる状況」に置き換えると、いろいろ腑に落ちるんですよね。自分でひとつひとつ答えを見つけながら進んでいく人なんだなあっていうのをすごく感じて。

「そうだと思います。納得しないままとか、自分が曖昧なままいろんなことが進んだりするのって結構怖くて。そういうところはすごくありますね」

──『はなしはそれからだ』ツアーの初日(3月15日・恵比寿LIQUIDROOM。ライヴレポートはこちら)を観させていただいたんですけど、何事も人任せにしないで、自分で答えを見つけようとしているモードがすごく伝わってくるライヴでした。

「そうしたいなと気をつけていることですね。それが本当にできているかっていったら不安ですけど、なるべく一回考えて、自分で動けることはやりたいなって」

──『はなしはそれからだ』を出して、ツアーを回って、あのアルバムに関して改めて思ったこと、気がついたことはありました?

「ライヴでやるのが本当に楽しみな曲たちばっかりだったんですけど。特に、メロディの中に置いている歌詞っていうもので、ちゃんと自分の歌いたいことがはっきりとストレートにわかるものを、なるべく選んで作っていったつもりなんです。なので、それが実際にライヴでもちゃんと活きてきたのが嬉しかったのと――逆に、すごく昔に書いた曲とかも入っていて、“ペースト”とかその辺の曲なんですけど。お客さんの中でも“ペースト”が好きって言ってくれる人が結構多くて。そういう人たちは、私のインディーズの曲とかもずっと好きでいてくれる方たちが多いんですけど……単純に、私が見てきたものとか感じたものとかを、『こういうことを歌いたいんだよ』ってわざわざ教えるために歌わなくても感じてくれるところが、やっぱりリスナーのみなさんにはあるし。みなさんを信じていていいんだなって思わされたというか。今後書いていく上で、無駄な注釈をいっぱい入れたり、そんなに『わかりやすい言葉で』って気をつけすぎなくても、ちゃんと伝わっていくよね、っていう感覚をもらったというか。っていう気持ちで、シングルを書いていったところはありますね」

手軽な音楽でありたいと思っているので、いい意味で。パッと短い時間で、エネルギーがドン!って出るようなものを届けたいなと、今はすごく思ってます

──なるほどね。《わかんないのはいやだ/わかったふりもいやだ》って、実は結構ヘヴィな歌詞じゃないですか。それをこのポップなメロディとサウンドで届けていくっていうのが、この曲のキモのような気がして。

「この“わかんないのはいやだ”はBメロの、まさにこのタイトルの「♪わかんないのはいやだ~」からできたんですけど。もう、メロディを作った時から、「わかんないのはいやだ」か「I don't wanna be a girl」しか浮かんでこなかったんです(笑)。で、これは絶対《わかんないのはいやだ》だと思って。それに対して、私が『わからない』と思う瞬間を――ちょうどその時、実際に抱えていた想いではあったんですけど。特に私は、楽しい曲であったりとか、胸が躍ったりするような曲に対して、真面目に歌詞を書きたくなるんですよ。だから、結構真面目に書いてる歌詞なんですよね、モードとしては。でも、《わかんないのはいやだ》って言ってるんですけど、これは結局は逆の意味なので。全然『わかんなくていい』の歌なんです。自分に対して『わかんないのはいやだ』って抱えているものを、一旦出して、考えてもらえたらな、って」

──結論を無理矢理出そうとする曲ではないですからね。

「そうですね。でも実際、手軽な音楽でありたいと思っているので、いい意味で。パッと聴けて『うん』って思えるような、即効性のある、持続性もある、っていう曲をいっぱい作ってて。元気な時ももちろん聴いてほしいですけど、やっぱり元気ない時に聴いてほしいんですよね。私自身が、『明日頑張れない時に聴く曲』みたいなものってあるし、あればあるほど嬉しいよなと思うと……必要とされたいなと思ってるんですよね、たぶん。そう思うと、パッと短い時間で、エネルギーがドン!って出るようなものを届けたいなと、今はすごく思ってます」

──それによって、植田さん自身も救われてる感覚もある?

「そうですね、それはほんとに年々……私の場合は、ちっちゃい時から『歌を歌っていきたい』って思い込み続けて大きくなったんですけど。『歌手をやっている』っていう感覚は今、私の中でようやく大きくなってきてる――やっと自覚がちゃんと芽生えてきてるっていうか(笑)。これまでは本当に、歌うために曲を作って届けている、っていう感覚がインディーズの頃から少なからずあったんで。私が歌い続けたいことを、メジャーデビューのタイミングの頃からいっぱい考えて……『あ、きっとこういうことなんだな』ってやっと見つかってから歌ってること、一個一個、それぞれの意味がしっかりと根付いていて。『絶対にいいものじゃないと嫌だな』って思ってるんですよね。なので、シングル1枚ですけど、手に取って、買ってもらって、損がないようなものにしたいなと思って作ってます」

──曲を作って表現している以上、「わかってほしい」っていうのは強くあると思うんですよ。わかってほしいから曲を書いてるわけで。でも、同時に「わかってたまるか」っていう部分も確かにある人だろうなあっていうのは感じるんですよ。

「面倒臭いですね(笑)」

──でも、ポップミュージックって基本、「ものすごい責任感をもって、無責任な表現をやる」っていうことでもあるし。自分の気持ちをそのまま書いたら、A4レポート用紙で何十枚にもなるところを、たったこれだけの情報量の歌詞で表現する作業なわけで。そこで植田真梨恵の気持ちがせめぎ合うのは想像に難くないんですけど――。

「(笑)はい」

──それでも、長大レポートではなく、ポップミュージックを通して聴いてる人に作用したい、それによって自分も手応えを得たい、っていうモードを、今回のシングルから切実に感じますね。

「……ありがとうございます。恥ずかしいです(笑)。でも、本当にその通りで。そういうことが私自身も面白いですし。ダーッと垂れ流したリアルっていうよりも、日常の中の隙間にカッといい形で埋まるような――それで感動できれば、とても素敵だなと思ってますね」

──普段の生活ではどうなんですか? A4レポート何十枚のタイプ?

「昔はそうだったんですけど……最近は『別にどっちでもいいな』って思えることが増えたんで、基本的には『どっちでもいい』って言ってるんですけど。たまに『おや?』と思ったら……言葉がパカパカ出ますね(笑)」

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