パワフルでエモーショナルな歌声と、繊細で多様な表現力を合わせ持つシンガー、ASCA。昨年11月にシングル『KOE』でデビューを果たし、その表題曲はTVアニメ『Fate/Apocrypha』2ndクールのエンディングテーマとしても話題を集めた。続く2ndシングル『PLEDGE』でも、表題曲は『グランクレスト戦記』のエンディングテーマに抜擢され、多くの人の耳にその声の輪郭は、はっきりと刻まれたことだろう。そして待望の3rdシングル『凛』がリリースされ、こちらの表題曲は、『グランクレスト戦記』後期のオープニングテーマとなった。これまで以上に伸びやかで力強い歌声は、ASCAのシンガーとしての成長を見せつける。さらに注目したいのが、カップリング曲として、彼女自身が中学時代から憧れてやまなかったという阿部真央の隠れた名曲“Don't leave me”をカバーしていること。彼女がなぜこの曲を選んでレコーディングをしたのか、そして、阿部真央本人は、このカバーをどのように聴いたのか。この日が初の顔合わせとなる対談が実現し、ふたりがそれぞれの楽曲への思いを語る貴重なロングインタビューとなった。

インタビュー＝杉浦美恵　撮影＝山川哲矢

真央さんは、中学校の時に「神を見つけた」と思ったくらいの存在（ASCA）

──まず、表題曲である“凛”は、これまで以上にパワフルで力強いボーカルが際立つ楽曲になりましたよね。ASCAさんご自身は、今作を完成させて、今どう感じていますか？

ASCA　これまでの自分の作品の中でも一番力強さが出たシングルになったと思います。1stシングルや2ndシングルでは結構繊細な表現を大事にして歌ってたんですが、今回は、自分の中でも強い気持ちを持って歌ったということもあって、レコーディングでは1回もへこたれずに歌いきりました。ASCAの曲の中でも、代表曲的なものになってくれたらいいなと思うし、パワーのある曲になったと思います。

──力強く歌うことを意識してレコーディングに臨んだ？

ASCA　この曲をデモでいただいた時に、最初に頭に浮かんだのが映画の『ワンダーウーマン』だったんですよね。女性が銃で撃たれても弾き返して前に進んでいく、みたいなシーンが思い浮かんだので、あくまで喩えなんですけど、レコーディングでも自分がワンダーウーマンになりきるくらいの気持ちで歌いました。諦めずに進んでいくみたいな。

──阿部さんは“凛”を聴きましたか？

阿部真央　はい。もう単純に、歌が素晴らしいと思いました。

ASCA　うわー、ありがとうございます！

阿部　いやいや。この“凛”もそうなんですけど、今回のカップリングや前作、前々作も、遡って全部聴かせてもらったんです。で、ハイトーンの素晴らしさですよね。こんなに力強くハイトーンを出せる人って、最近なかなかいなかったんじゃないかなと思って。ASCAちゃんもさっき言ってたように、前作2曲のリードは、旋律も繊細さがある感じだったんですけど、今回の“凛”はもうガツーンと力強さがあって、「良さ」がめっちゃ出てるなあって思ったんですよ。“Don’t leave me”のデモを聴かせてもらった時にもそうだったんですけど、圧倒的に歌声が素晴らしいシンガーだなと感じました。

ASCA　おお〜。もう私からしたら真央さんは、中学校の時に「神を見つけた」と思ったくらいの存在なので。その言葉はめちゃめちゃ嬉しいです。

──ASCAさんが阿部さんの楽曲に最初に出会ったのは？

ASCA　中学2年生だったと思うんですけど、学校の文化祭で踊ってたんですよね、真央さんの“ロンリー”で。特徴のある声だけど芯があるみたいな、「この声は誰だ？」って。それでアルバムを聴いたらほんとヤバイ！と思って。“ふりぃ”とか“伝えたいこと”とか、そういうアッパー系な曲も歌いこなしてて、その……カメレオン、っていう言い方はおかしいかもしれないですけど、どんな曲でも自分のものにしてるっていうか、いや、でもご自身で作ってらっしゃるから当たり前なんですけど……。

阿部　あはは！ 大丈夫だよ。その表現は嬉しいです。

ASCA　うまく言えなくてすみません。なんかでも、自分で作ってるアーティストの方って、全部自分の歌い方になるというか、声質はあんまり変わらないイメージだったんですけど、真央さんのアルバムを聴いた時には、ひとつひとつの曲ごとに、歌い切ってるというか、なりきってるというか──でも、なりきってるっていうのは違うか。自分で作ってる曲ですもんね。

阿部　でもほんとその通りですよ。そうやって歌ってたから。あのー、恐れずになんでも言ってもらっていいよ（笑）。

ASCA　ありがとうございます（笑）。それで『ふりぃ』っていうアルバムが大好きになって聴き込んでた中学時代だったので、ほんと私にとっては「神」だったんです。

──その頃、ASCAさんはすでにロックバンドのボーカリストとして活動していましたよね？

ASCA　そうです。2つくらい年上の男の子3人と。

阿部　へえ、かっこよさそう。

ASCA　その時に真央さんの曲もやってたんですよ。「やりたい曲は何？」って聞かれて、「“伝えたいこと”！」みたいな。

──ほかにはどんなアーティストの曲をコピーしてたんですか？

ASCA　先輩が好きって言ってたSHAKALABBITSさんとか。

──その中でも、ASCAさんが希望したのは阿部さんの楽曲だったってことですね。

ASCA　そうです。もう大好きだったので、カラオケでも絶対歌ってたのが“伝えたいこと”、“ふりぃ”、“Don’t leave me”だったし、友達がノリノリになってくると“ロンリー”とかは必ず歌ってました（笑）。

阿部　いやもう、ありがとうございます！

ASCAちゃんの響くところがコアファンと同じ（阿部）

──完全に日常生活の中に、阿部さんの歌があったという感じなんですね。

ASCA　はい。毎日聴いて、口ずさんでました。

──だから今回のシングルで、カップリングとして入れたいっていうのはASCAさんからの、たっての希望だったというわけですね。

ASCA　そうです。1stアルバム『ふりぃ』の中に入ってた曲で、ほかのアッパーな曲もすごい刺さったんですけど、その中にあってシンプルな“Don’t leave me”がより際立ってるというか。「卒業シーズンで、男の子が思いを告げられずにいる」っていうような歌詞が、自分が経験したわけじゃないのに、聴いただけで泣ける曲ってあるんだなと思って。高校生になって音楽教室に通い始めて、その時も“Don’t leave me”をライブで歌いたくて仕方がなかったんです。それくらい、中学の時に初めて聴いてからずっと好きな曲だったんですよ。レッスンでも、この曲だけは毎日練習して歌い込んでた曲なんです。

──一番思い入れの強い楽曲だったんですね。阿部さんはいかがですか？ この楽曲が選ばれたことについて。

阿部　そういう経緯があったのかあ、嬉しいなあって思って聞いてました。

ASCA　でもこの曲、最近のライブでも歌われてましたよね？

阿部　歌ってますね。やっぱり好きな人が多いんですよ。でも、それはコアファンかな。

ASCA　やっぱりアッパーな曲やポップな曲のほうが好きな人が多いんですかね。

阿部　あとタイアップがついた曲とかは知られてる分だけ人気も高いのかもしれないけど、“Don’t leave me”はアルバム曲だからね。まあ、1stアルバムは比較的、私の作品の中でも聴いてくれてる人が多いと思うけど、でも、この曲をチョイスしてくるのは、いろんな曲を聴いた上で、「あ、これがいいな」ってたどりついてくれた人だと思うので、近年のライブでもコアファンのために歌ってるっていうフシが強いかもしれない。感覚的にね。ASCAちゃんの響くところがコアファンと同じところなんだなあっていうのを、今聞いてて思いました。嬉しいです。

──阿部さんは音楽活動を始めるきっかけとして、やはり自分の作った歌を歌っていきたいという思いがあったんでしょうか、

阿部　いや、そこは違います。全然なかったんです。私、最初アイドルになりたかったんですよ。それでシンガーになりたいと思って。

ASCA　歌って踊れるアイドルですか？

阿部　そう。好きだったんですよ。でも落ちまくって、中学3年の時に最後に受けたシンガーのオーディションにも落ちて、もうこれは音楽はやめとけってことかなと思ってたけど。その頃アヴリル・ラヴィーンが好きだったんですよ。それでギターを始めてみようかと。そこからアマチュア・ミュージシャンの輪が広がって、「真央も曲書きなよ」って言われて、仕方なく書いたら大会に誘われたから仕方なく出て、そしたら賞をもらってっていう流れで。だから私はマイナススタートだったんです。曲を書かないと歌手になれないんだと思って、結構落胆してたんですよね。曲を自分で書くっていうオプションがないと、私はデビューさせてもらえないのかって。だからほんとは歌だけ歌ってたかったの（笑）。

ASCA　でも、だからなんですね。真央さんの歌の表現力がすごいのは。シンガーソングライターっぽい感じと、曲を提供してもらって歌うシンガーのスタンス、二面性を兼ね備えてる気がします。

阿部　すごい分析！ いや、でもそうかも。

ASCA　自分で作った曲だけど、めちゃめちゃ表現してますよね。「自分で書いた曲だからいいだろう」って、あぐらをかいてるみたいなところが一切なくて。だからアルバム聴いててもまったく飽きないんですよ。一曲一曲がもう、ぎゅっと表現されてる感じで。

阿部　わー、嬉しいなあ。