テレビドラマ『僕らは奇跡でできている』の主題歌として書き下ろされた“予感”と、カップリング曲“まごころ”が収録されている最新シングルは、SUPER BEAVERの実像が深く刻まれている作品と言うことができるのではないだろうか。不安と迷いの日々を重ねながら歩んできた彼らの軌跡が温かいメロディと化していて、説得力に満ちたメッセージを浮き彫りにしているのを感じる。この2曲に込められている想いとは何なのか? 渋谷龍太(Vo)と柳沢亮太(G)が語ってくれた言葉の数々は、SUPER BEAVERの音楽活動に対する基本姿勢も自ずと示していると思う。
このインタビューの完全版は11月30日発売の『ROCKIN'ON JAPAN』1月号に掲載しているので、そちらもぜひ目を通してほしい。
インタビュー=田中大 撮影=高木博史
活動14年目の自分たちが、自分たちの姿勢で示せることでもあるのが、この曲(“予感”)だと感じてます(渋谷)
――“予感”は、『僕らは奇跡でできている』の主題歌として書き下ろしたんですよね?
柳沢 はい。ドラマとリンクする部分を踏まえて作ったんですけど、自分たちが今歌いたいことと結びついた楽曲にもするのを意識しました。
――僕がこの曲で描かれていると感じたのは、「自分の心の声に忠実である」という姿です。
柳沢 このドラマもそうですし、普段生活している中でも、「こう言ったらどう捉えられるだろう?」って考えてしまって、違和感を覚えながらも口をつぐんでしまう場面があると思うんです。そういうのを少しでも口にしたり、行動に移すことができたら、何かが変わるんじゃないですかね。それが『僕らは奇跡でできている』で描かれていると僕は感じたのと同時に、SUPER BEAVERがずっと歌ってきたことですし、これからも歌っていきたいことなんです。
渋谷 今の自分たちがこれを歌えるというのは、意味のあることなのかなと。活動14年目の自分たちが、自分たちの姿勢で示せることでもあるのが、この曲だと感じてます。
――心の声というのは、この曲の歌詞の表現を借りるならば《予感》ですけど、漠然としたものである分、目を逸らしてしまいがちですよね。それは我々の多くが普段から感じている難しさではないでしょうか。
柳沢 そうですよね。でも、「こっちに行ったほうが楽しそうな気がする」という、確証はないけど感じる予感って、小さなものであれば従うのはそんなに難しいことじゃないんですよ。そういうことにこの曲でフォーカスを当てられたらいいなと思ってました。歌詞にある《名も無き感動に 感情に》っていうのも、自分の中で生まれる小さなきっかけです。そういうところを改めて表現したかったんです。
――《予感》に従って一歩を踏み出して、それが正しい選択だったと思える瞬間に繋げていくことの大切さについても考えさせられる曲です。
渋谷 《予感》って1個の原動力ですからね。これに衝き動かされて進む以外ないようにも思います。今ってたくさんの情報があるので様々な前情報が得られるし、ざっくりした形の正解みたいなものって見つけられるから、《予感》っていう自分の感覚に頼ることがもしかしたら減っているのかもしれないですけど。
不安が全くなかったわけではないですけど、それ以上に「これがもしこうなったら、もっと楽しいんじゃないか?」っていうほうに懸けてきた(柳沢)
――この曲、繰り返し聴けば聴くほど、SUPER BEAVERそのものだなという感じがしてくるんですよ。みなさんは解散してもおかしくない状況になった時期もあったわけですけど、《予感のする方へ 心が夢中になる方へ》ということを選んだから、今日に辿り着いていると思うので。「SUPER BEAVERとは、予感に従ってきたバンドである」と言っても過言ではないですよね?
柳沢 そうですね。
渋谷 僕もそう思います。
柳沢 そうやってきたのが「正しかった」というか「楽しかった」って思えるのは、どうしても後になってからなんですけどね。でも、たしかに、自分たちの歴史を振り返るとおっしゃる通りです。メジャーから離れたからといって、不安よりも「なんか楽しそうな気がする」っていうほうが勝って、自分たちを衝き動かしたんです。不安が全くなかったわけではないですけど、それ以上に「これがもしこうなったら、もっと楽しいんじゃないか?」っていうほうに懸けてきたんです。
渋谷 まあ、それなりに失敗もしてきましたけど(笑)。いろいろ時間がかかりましたが、経験してきたことを無駄にしたくなかったんですよね。
――「SUPER BEAVERとは、無駄なことにしなかった力が高いバンドである」と言うこともできると思います。
渋谷 力技です(笑)。その場限りでは無駄なことはいっぱいあったと思うので。でも、支えてくれる人がいたり、音楽を聴いてくれる人がいたから、そういうものもひっくるめて「無駄な時間だった」って思っちゃうことは悲しくて悔しかったんですよ。だからそれを自分たちによって無駄じゃなかったことにして、「全部未来で回収してやろう!」というのは意識的にやってました。
柳沢 いつだって僕らは最短距離を走ってきたつもりなんですけどね(笑)。結果として、回り道とされるようなルートを辿っていただけというか。何かを期待して回り道をすると何もなかった時に失望するし、意外と何もなかったりする気がしますけど、僕らの場合は「振り返ってみるとあれがあったね」というのがあるから今に活きているのかもしれないです。
渋谷 僕たちの場合は遠回りして美味しいリンゴの木を見つけたとかいうよりも、種を拾ってきた感覚が強いのかも。その場では何だったのかわからなかったものが、芽を出して実がなったというようなことが多かったので。
――『猿蟹合戦』の蟹みたいですね。
渋谷 たしかに、おむすびと柿の種を猿と交換した蟹みたい。
――あっ、あの蟹は種を蒔いて柿の実がなるようになったら、猿に殺されちゃうんだった……。
渋谷 そうでした(笑)。
――(笑)まあとにかく、“予感”は、すごくSUPER BEAVERらしい曲です。《名も無き感動に 感情に 想うがままの名前をつけていこう》とか、みなさんの軌跡をズバリと言い表したフレーズにもなっていると思いますし。
柳沢 ありがとうございます。感情って「嬉しい」「楽しい」「悲しい」とか大雑把にはありますけど、そういうものの間に細かい、なんとも言えないものがあって、それは自分にしかわからないじゃないですか。そういう感情を大事にするのは自分自身だし、それを大事にできればいろんなことが変わっていく気がしているんですよ。