“KEMURIKUSA”は、放送がスタートしたTVアニメ『ケムリクサ』のオープニングテーマ。言葉と感情を激しく溢れ返らせている歌声が、とても刺激的だ。まるで戦うかのように歌っているナノの姿によって、自分自身の力で人生を切り拓くことのかけがえのなさが鮮やかに表現されている。『ケムリクサ』の世界が反映されていると同時に、力強いメッセージも深く刻まれているこの曲は、どのようにして生まれたのか? ナノの表現の本質、日本とアメリカの文化の差異についての話なども含めて、じっくりと語ってもらった。
インタビュー=田中大
自分の人生は自分でしか切り拓いていけないですし、自分を救うのは自分。そういうことを考えながら作った“KEMURIKUSA”は、自分と向き合うための曲でもありました
――“KEMURIKUSA”は、『ケムリクサ』のために書き下ろした曲ですよね?
「そうです。『ケムリクサ』の監督さん(『けものフレンズ』を手がけた「たつき」)からイメージを伝えていただきつつ、『ナノとしての解釈はこうだな』ということを表現した曲です」
――ナノさんの解釈は、どのようなものでした?
「『ケムリクサ』は、『必死に戦ってる命』というものの大切さを描いている作品だと感じたんです。だから、この曲でキーワードにしたのは『命』。自分の人生は自分でしか切り拓いていけないですし、自分を救うのは自分。そういうことを考えながら作った“KEMURIKUSA”は、自分と向き合うための曲でもありましたね」
――監督さんからいただいたイメージは、どういうものだったんですか?
「『あまり深読みをしたような歌詞ではなくて、ナノの解釈でフラットに表現してください』とおっしゃっていたんです。だから初めて『ケムリクサ』を観る人も曲を聴くことによって作品の世界観がわかって、納得できるようなものにしたいと思っていました」
――曲のタイトルが、すごくストレートですよね。
「作曲をしたWEST GROUNDの意向でもあるんです。このタイトルにしたことによって、『ケムリクサ』にできるだけ寄せた曲にするという意識が、より高まりました」
――サウンドに関しては、シンセサイザーの華々しいサウンドが印象的です。
「自分の曲の中でも、相当シンセサイザーの部分が厚い曲だと思います。BPMも速いので、勢いのある曲になりました。歌っているとテンションが上がります」
――細かい部分ですけど、この曲の《奪い去っていくんだ》が、僕はすごく好きです。ナノさんの歌は、こういう「っ」が、かっこいいんですよね。
「WEST GROUNDも、そこが好きって言ってくれます。こういうのは、WEST GROUNDとのコラボレーションで成り立っている部分でもあるんだと思います」
――「ナノさんをひらがな一文字で表わしてください」と言われたら、「っ」と答えるファンは多い気がします。
「それ、面白いですね(笑)。こういう言葉遣いをするのは、自分に言い聞かせているようなイメージもあるからなんです。歌詞はもちろん聴いてくれる人に届けたいメッセージというのもあるんですけど、歌っている時に自分でも共感できて、何かを感じることができるものでないと、自分の歌詞にはならない感覚があるんです」
――つまり、“KEMURIKUSA”もアニメのことを踏まえていると同時に、ご自身を鼓舞する曲でもあるということですね?
「そうです。人生の中ではいいこともありますけど、苦しいこともたくさんあるじゃないですか。そういう苦しさが自分のバネになるので、歌詞にもそういう部分が多く出ますね。自分はポジティブな人間ですけど、こういう表現をすることによって、より燃え上がるものを感じられます」
――「燃え上がる」というのも、ナノさんのキーワードですね。ファンのみなさんがナノさんの歌から感じる属性は、おそらく「火」ですよ。
「間違いなく『水』ではないですね(笑)。小さい頃から一番好きだった色が赤でしたし。アメリカに住んでいた頃、よくキャンプをしていて、家にも暖炉があったので、炎を見つめるのが、とにかく好きだったんです。自分はそういうものに魅力を感じる人間なんでしょうね」
歌は自分にとって「癒し」というよりも「自分との戦い」っていうイメージのほうが、正直なところ大きくて。だから、歌っている時は、戦闘モードです
――属性が「火」のナノさんにとって、「歌う」というのは「戦う」というイメージにも結びつきますか?
「そうですね。歌は自分にとって『癒し』というよりも『自分との戦い』っていうイメージのほうが、正直なところ大きくて。『歌=自分との勝負』というか。だから、歌っている時は、戦闘モードです。占いにはそんなに興味はないんですけど、占ってみると何度やっても『ファイター』って出てきちゃうんですよ(笑)。『ああ、自分はやっぱりファイターなんだ』と納得しているところもあります。停滞するのも流されるのも大嫌いな性格ですからね。でも、自分の中にもしかしたらあるのかもしれない、『戦い』以外のものも音楽で追求していきたい気持ちもあります。最近、バラードもどんどん好きになっていますし」
――普段、こうしてお会いするナノさんは、すごく穏やかですけどね。
「音楽以外のところでは、そうなんだと思います。すごく慎重で真面目ですし。何かをする時もちゃんと計算をして、効率の良さを考えますから。電車で移動する時も、乗った車両がエスカレーターの前に来ないと嫌なんですよ(笑)」
――(笑)ステージに立っている時のかっこいい姿と較べると、ギャップがありますね。
「『歌ってる時、なりたい自分になれる』っていうようなアーティストの言葉を聞くと、前までは不思議だったんです。でも、最近になって、その気持ちが少しわかるようになってきました。歌っている時は自信を持てたりしますからね。みんなのパワーのおかげで、ステージにいる時は『なんでもできる!』っていう気持ちになれるんです。それはミュージシャンという職業の特権なのかなと思っています」
――歌っている時のナノさんは、「凛としている」という言葉もすごく似合いますよ。和服が似合うんじゃないかなと、僕は前から思っているんですけど。
「いつか着てみたいですね(笑)。MVとかで着たいです」
――『ケムリクサ』を観た人は、登場するキャラクターの「りん」に通ずるかっこよさも感じるんじゃないですかね。
「りんちゃんも、まさにファイターですからね」
――“KEMURIKUSA”はアニメの『ケムリクサ』にもすごく合っていますし、ナノさんのファン層をさらに広げることに繋がりそうです。
「そうだと嬉しいです。今までもたくさんアニメの曲を歌ってきましたし、自分を支えてくれて、道を切り拓くことに繋がったのもアニメですから」