THE CHERRY COKE$が9thアルバム『OLDFOX』を10月9日にリリースする。今年は結成20周年という節目。アイリッシュパンクを出発点として、様々な時代や国、ジャンルへと寄港してきたチェリコという名の船が、日本の蒲田という地元に戻ってきた――そんな壮大なストーリーが感じられるような、スケール感のある11曲が詰まっている。
今回は、6人のメンバーを代表して、KAT$UO(Vo)、MASAYA(G)、LF(B)に集まってもらい、『OLDFOX』について、そしてチェリコの過去、現在、未来について語ってもらった。
インタビュー=高橋美穂
アイリッシュだ、アメリカンだ、ヨーロピアンだってやってきて、今、ジャパニーズに行き着いた(KAT$UO)
――結成20周年、おめでとうございます! “Daydream Believer”には《20years ago》という歌詞も出てきますが、『OLDFOX』を制作するうえでも、20周年というテーマはあったのでしょうか?
MASAYA そうですね。まず、10曲目の“桜舟~Sail Of Life~”を20周年イヤー最初の1曲として、配信限定で出したんです。YouTubeでMVも出して。20周年って1回しか来ないし、そこまで到達できるってなかなかないことじゃないですか。ただ、前のアルバム(『THE ANSWER』)を1年前に出したばかりだったので、ちょっとキツいなとは思いつつ、何か動くなら今だろうって。さっき仰った“Daydream Believer”は、仮タイトルが“1999”だったんです。僕ら、今のレコード会社の前、STEP UP RECORDSに移籍して出したアルバム(2008年リリースの3rd『Sail The Pintf』)でMVにした曲が“1999”だったんですね。それを今やるとこんな感じ、みたいな。
――歴史あるバンドにしかできない技ですね。
MASAYA そうですね(笑)。実は1曲目の“火華~HIBANA~”も、仮タイトルは“RASCAL”で、それもSTEP UP RECORDSで出した(4thアルバム)『SEVEN』のリードトラック”RASCAL TRAIL“を今やるとこういう感じ、っていう。
――なるほどね!
MASAYA ただ、“火華~HIBANA~”は、レコーディングの2週間くらい前にできたんですよ。そこまでのラインナップを見たKAT$UOさんが「悪くないんだけど、ちょっとパンチがない気がする」って言って。そこで、最後に“火華~HIBANA~”を作ったんです。おかげで、すべてがいいように作用しましたね。
――結果的に、“火華~HIBANA~”“Daydream Believer”というオープニングは、パンチ二連発になった気がします(笑)。
MASAYA そうですね(笑)。
――もうひとつ、今作の入り口として重要なところが、アーティスト写真や“火華~HIBANA~”のMVの、和的なアプローチです。かなり振り切ったやり方に見えました。
KAT$UO これは“火華~HIBANA~”の歌詞にはこういうものが合うなって思ったところから始まっています。だけど、あんまり新しいことに挑戦したつもりもないんですよね(笑)。THE CHERRY COKE$って、アイリッシュパンクと言いながら、あまりジャンルに固執しないでやってきたので、何をやるにも恐怖心ってないんです。そんななかで、ようやく自分たちのアイデンティティというか……アイリッシュだ、アメリカンだ、ヨーロピアンだってやってきて、今、ジャパニーズに行き着いたんですよね。
――“桜舟~Sail Of Life~”も、これまでのTHE CHERRY COKE$のイメージであるパイレーツ感と、和の融合を感じます。
KAT$UO そうですね。THE CHERRY COKE$は今までも桜を歌詞にしてきたんですけど、プラス、自分たちの世界観っていう。
――今語っていただいた、和というルーツを表現したところと、20周年という節目は、繋がっているようにも思えますけれども、いかがですか?
KAT$UO そうですね。“蒲田行進曲”のカバーが入っているところもそうなんですけど、(大田区蒲田は)結成した場所ですから。地元をレペゼンする気持ちって、今でこそありますけど、20年前はみじんもなかったんです。大田区って訝しく思われる土地なので(苦笑)。まあ、僕らにとっては逆に誇りでもあるんですけどね。でも年月が経って、自分が年を取ってくると、地元をより多くの人に知ってほしいと思うようになって。だから今、ここで生まれたバンドなんだっていうことを出したかったんですよね。
――“蒲田行進曲”は、遂にきた!感がありますけど、ただ速くするだけではなく 歌謡感も醸し出しているところから、原曲へのリスペクトが伝わってきました。
MASAYA 確かに、そこですね。
陰と陽があったほうがいいと思って。そういう引き出しを作るうえで、僕のなかでロシア民謡というテーマがある (MASAYA)
――作曲者であるMASAYAさんは、今作の中にルーツを出すという意識はありましたか?
MASAYA んー……特に意識はしていなかったんですよね。ただ、“Social Network Slave”は、イントロでドブロ・ギターを使っているんです。前作を作り終えてから、ふとした時に、まあうちのバンドじゃ渋すぎてできないだろうな……と思いながらもこの曲を作って、Lさんに聴かせたよね。
LF うん。車の中かな?
――なかなか嵌っていますよね、私は、イントロのフレーズにストーン・ローゼズを連想しました。
MASAYA ああ、嬉しいな、それ!
――マンチェもあって、和もあって、もちろん“パブリック・ハウス”などにはアイリッシュも感じますし、アルバムを通して世界旅行ができるような気がします。なかでも、ロシア感がわかりやすく表れているのが“Flame”です。
MASAYA ロシアの“カチューシャ”と“トロイカ”が入っていますからね。僕、THE CHERRY COKE$に入ったころから、ラスティックの先輩でも、ただ陽気な曲をやるだけのバンドよりも、マイナーキーのロシアっぽい曲もやっているバンドが好きだったんです。海外のレコードを買い漁っていても、ロシア民謡みたいなインストをやっているバンドとか、引っかかるんですよね。それまでカウパンクみたいなのをやっているのに、なんで1曲だけこういうものを入れるんだろう?って。だから、自分のバンドでも、陰と陽があったほうがいいと思っていたんです。ハンバーグ好きですけど、たまにはラーメンが食べたい、みたいな。そういう引き出しを作るうえで、僕のなかでロシア民謡というテーマがあるんです。前作の“Gypsy Moon”にも、ロシアの“ポーリュシカ・ポーレ”が入っていて。ロシア三部作、みたいにしたいなって思っているんですよね。今回は、その2曲目です。
――しかも、この曲、ずっとロシアっぽいわけじゃないんですよね。サビが全然違う。このアレンジは秀逸でした。
MASAYA 僕、アニソンが好きなんですけど、アニソンっぽいサビの開け方をしたかったんです。最近のアニソンって、なんなくバッキバキに転調していくんですよね。
――MASAYAさんの引き出しの多さが、いつも以上に活かされていますね。
MASAYA それで言うと、“火華~HIBANA~”のイントロ、静かに始まって、そのあとのところは……僕、スクウェアのゲーム「ロマンシング サ・ガ」シリーズの音楽を作っている伊藤賢治さん、通称イトケンさんの音楽がものすごく好きなんですけど、そのオマージュなんです。イトケンさんも神ですし、「ファイナルファンタジー」の(音楽を作った)植松(伸夫)さんも神ですね。
――オマージュ、ちりばめるの好きですよね?
MASAYA 出したがりですね、そこは。ただ、あの……“ラスト・ピース”の、ツインリードから入るギターソロを、とあるインタビューの前の打ち合わせの時に、司会の方から「あれはジョン・サイクスの“プリーズ・ドント・リーヴ・ミー”ですよね」って言われて。僕、作っている時は意識していなかったんですけど、確かにそうだなって思ったんです。そこで、「言われてみればそうですね」って言えばよかったのに、「そうです、よくわかりましたね」って言っちゃったんです。あれ……ダサかったな(笑)。
KAT$UO 懺悔したい(笑)。
――ここで告白できてよかったです(笑)。
MASAYA ジョン・サイクスは、中3の時にライブを観に行ったくらい、僕にとってもスーパーギタリストだから、染みついているんだろうなとは思います。