結成5周年〜6周年の集大成として11月4日に開催された幕張メッセイベントホールでのワンマン「『LIVE - RATION 2019 FINAL』〜幕張ヴァージンはあなたのもの~」。本人たちもステージで言っていたとおり、集客という面では悔しさも残るものとなったが、それにしてもあのライブは感動的だった。メンバーはひたすら客席に「ありがとう」と言い続けていたし、4人が鳴らす音も、いつも以上にエモーショナルだった。あの日あの場所で彼らは何を感じていたのか、そしてこれから感覚ピエロはどう進んでいくのか。いまだ「思い出すと緊張してくる」という4人に訊いた。
インタビュー=小川智宏
ちょっと消化不良じゃないですけど、もう1回この場所に帰ってきたいなっていう思いのほうが強いかもしれない(横山)
――幕張メッセでのライブ、おつかれさまでした! まずはやり終えての今の気持ちを。
横山直弘(Vo・G) 率直に、わかんないんすよ。正直にあろうと思ったし、その日来てくれたお客さんに対して真摯にライブをしたいと思ってがむしゃらにやったんですけど……自分のなかでまだなんか他人事みたいに思えてて。あと、これはMCでも言ったんですけど、純粋に悔しさもある。1年かけて準備してきた幕張は終わったんだけど、ちょっと消化不良じゃないですけど、もう1回この場所に帰ってきたいなっていう思いのほうが、ひょっとしたら強いかもしれないです。
滝口大樹(B) 僕も似た感じかもしれない。終わった感覚がないんですよね。やり切ったっていうのもないんで。「あ、終わったんか幕張」ぐらいの。やっている最中は楽しかったし、もちろん緊張もしましたけど。
――MCでおっしゃってましたけど、10年ぶりの家族の再会というのもあって。
滝口 そう。よく考えたら20年やったんですけど(笑)。まあ、あのMCしたからかもしれないですけど、オカンもオトンもすっと帰りましたけどね。
横山 そうなんや!(笑)。
――アキレスさんどうですか。
アキレス健太(Dr) まあ、僕はほっとしましたね、終わって。なんか背負ってたのか、重荷が下りた感じがしました。でも当日のことはなんか記憶が飛んでるみたいな、空想のできごとみたいな感じです。
――どうですか、秋月さん。
秋月 なんやろな……余韻ももちろんあるんですが、次に提示しているものもあるんで、その狭間にいるというか。悔しさもあるし、この次、また大きな場所でやるっていうイメージもちょっと見えたし、そこに向けて歩き出したいなって。
――変な言い方ですけど、悔しさが残ったぶんだけ未来につながっているというか。
秋月 そうっすね。それはメンバー全員が感じていると思います。終わったあとの「終わった! 乾杯! うぇーい!」っていうのがなかったんで、そこはある種安心したというか。
――僕の感想を言うと、いつになく愛が溢れているライブだったなと思ったんですね。音楽に対する愛、バンドに対する愛、お客さんに対する愛を隠していなかったですよね。
横山 そうですね。漠然と「幕張メッセでやります」って1年間言い続けて、お客さんが来てくれるんだろうかっていう不安との闘いでもあったんですよね。当日も明言したんですけど、会場の座席配置もああいう形になって……。
――ステージを横向きに設置することで、客席のキャパを狭めるっていう。
横山 うん。その意味ではあのライブは成功だったかというとそうではないけど、それにしたって、ああいうふうに集まってくれたお客さんたちに対しては、僕たちの不安に応えてくれてありがとうっていう気持ちしかなかったし。お客さんも緊張していたと思うんですよ。ただ観るだけじゃなくて、自分のことのように思って来てくれたお客さんをもててることが感覚ピエロらしさで、それに対して感謝を伝えなきゃいけないって思ったんで、ひたすら「ありがとう」って言ってた気がするんですけど。
――MCで「楽屋の空気がヤバかった」みたいなことも言っていましたけど、実際どんな感じだったんですか?
秋月 全員が全員ソワソワしていて。で、なんか「おーい、緊張してんのかよ」とか言って、全員で空回りしだすっていう(笑)。リハーサルのときはスタッフも含めてキャッキャキャッキャしてたんですけど、衣装に着替えたぐらいから全員緊張しだして、スタッフにもそれがうつるみたいな。ちょっと変な空気でしたね、やっぱ。ステージに出てからも最初はフワッフワしてましたね。「本当にこれ、届いてんのかな?」みたいな。距離があるし、失礼ながら客席の上のほうは見えないんですよ、逆光で。表情も見えないので心配になるじゃないけど、そういう感じはありましたね。
――客席の空気はすごくよかった。最初から最後まで。
横山 ああ、そうなんですね。
――それこそ、一緒に緊張して、一緒に興奮して、一緒に感動するみたいな。そういう空気がずっとあって。1個の物語を一緒に作ってるんだなっていう感覚はすごくありましたね。
秋月 僕もあとで映像を見返したときに思ったより近く感じられて。それはよかったなあと思いましたけどね。
肩の荷は下りましたけど、そのぶん違うものが載ってきたなっていうのもある。あっこで終わりじゃないので(秋月)
――ライブ中、何か印象に残っているシーンはありますか?
横山 僕はタッキー(滝口)さんのMCかなあ(笑)。
――タッキーさん、ちょっと涙ぐんでましたよね?
滝口 って言われるんですけど、俺的には……。
横山 ちょっと涙ぐんてたでしょ?
滝口 ファンの子からも「あの瞬間ウルウルしてるのが心に刺さりました!」って言われて「ウルウル……?」って。
――照明のせいかな?
秋月 いい演出でしたね(笑)。
滝口 じゃあ、泣いてたことにしといてください(笑)。
秋月 こっちもまさかそんなエピソードが出てくると思って振ってないので。なんか「……えっ?」みたいな(笑)。
滝口 直前に決まったんですよ、来るのが。父親からは初めて行くよって言われてたんですけど、オカンは「遠いし今回やめとくわ」って言ってたんですけど、1週間前ぐらいに来れることになって。
秋月 嬉しいねえ。なんか、曲よりもMCのほうが覚えとるかもね。曲は、初めてああいう広いステージで、終始自分のことで精一杯だったので。
――健太さんはどんなシーンが印象に残ってますか?
アキレス なんやろ……ほんまに覚えてないな。
全員 はははははは!
アキレス いちばん緊張してたんじゃない? 俺。めっちゃ緊張しいなんですよ。ほんまに自分じゃないみたいやったしな。
――だから、最後に脱いだときに「解放されたんだな」って思った。
アキレス ああ、そうっすね。あっこはほんまに解放されてました。
秋月 ほんと僕ら、自分らで言うのもなんですけど、根っこがクソ真面目すぎて。めちゃめちゃ小心者ですし。バンドマンにも「パリピっぽい」とか「イケイケっぽい」とかよう言われますけど、ほんとそうじゃないので。緻密に姑息にやっとるバンドなんで。
――しかも、いろいろ積み上げてきた結果としてのあの1日だからね。背負ってるものもあるし。
秋月 不安と期待と、「やったろう」感もあれば「やらないと」感もあって。だから、さっき健ちゃんが言っていたとおり肩の荷は下りました……けど、やっぱりそのぶん違うものが載ってきたなっていうのもあって。あっこで終わりじゃないので。それは来てくれた人全員に言いたい。