“夜永唄”バイラルヒットでリスナーの心を捉えた、神はサイコロを振らないとは

“夜永唄”バイラルヒットでリスナーの心を捉えた、神はサイコロを振らないとは - Photo by MASANORI FUJIKAWA, toyaPhoto by MASANORI FUJIKAWA, toya

文=小池宏和

SNSを通じて楽曲が広く認知され、バイラルヒットと呼ばれる現象が起こる。TVドラマやCMとのタイアップがヒットと密接に関わっていたのと同じくらい、今やリスナー一人ひとりが手にしたデバイスからの情報発信は、音楽の流行に大きな影響を及ぼしていると言えるだろう。

新型コロナウイルスが猛威を振るい、ありとあらゆる社会活動が停滞したこの2020年春、TikTok動画を通じて、あるバイラルヒットが生まれた。神はサイコロを振らない(通称:神サイ)による“夜永唄”というロッカバラードだ。ある者は切ない恋模様を伝える動画にこの曲を重ね合わせ、またある者はその美しい旋律と節回しの歌を弾き語りでカバーし、果てはエモーショナルなダンス動画の数々にまで使用されてきたナンバーだ。

福岡県で結成された神はサイコロを振らないは、柳田周作(Vo)、吉田喜一(G)、桐木岳貢(B)、黒川亮介(Dr)の4人組バンド。そもそも“夜永唄”は2019年5月にリリースされたミニアルバム『ラムダに対する見解』に収録されていた楽曲だが、それから1年弱が経過した2020年4月には、日本のSpotifyバイラルチャートのトップ5に食い込み、LINE MUSIC邦楽ロックチャートでは1位を奪取するに至った。また、神サイの公式YouTubeチャンネル上で公開された同曲のオフィシャルリリックビデオは、本稿執筆時点(6/5)において630万回再生を突破している。


ボーカルの柳田も、自身のTikTokアカウント上で「#本人が歌ってみた」動画を公開している“夜永唄”だが、興味深いのは多くのTikTok動画で、逆回転フレーズを用いた浮遊感のあるイントロからピアノが寄り添う歌い出しへと至る、そんな部分の音源が使用されていることだ。重厚なロックサウンドが用いられたサビ部分のダイナミックな展開もこの曲の魅力ではあるのだが、新型コロナウイルスに生活を脅かされていたこの時期、多くのリスナーの琴線に触れたのは、あのどこか不安定で儚く切ない、オープニング部分のサウンドスケープだったのだろう。

逆に言えば、神サイというバンドのサウンドには、あの印象的なオープニングを生み出すことの出来る表現レンジの広さと懐の深さが備わっている、ということである。今年2月にリリースされた目下の最新ミニアルバム『理 -kotowari-』では、世界の不条理を掻い潜って力強く舞い上がるバンドサウンドの“ジュブナイルに捧ぐ”や、悩ましく痛ましい恋愛関係を描いたミディアムテンポのラブソング“胡蝶蘭”、そして《月が綺麗なんて 優しい嘘なら要らないの》と不敵な文学性にエロティックな衝動を混ぜ込んで爆走を繰り広げる”揺らめいて候“(個人的にはこの曲が大好きだ)など、多彩な表情を見せている。

柳田のTikTok動画を見ると、ドスの効いた叫び声を上げるユーモラスな動画もあったりするので、これがあの“夜永唄”の繊細な詩情を綴り、心の振動を伝える美しい歌声を放った男なのかと、驚かされる。切ないラブソングを歌うにせよ、獰猛で挑発的なロックチューンを歌うにせよ、彼の表現は感情が昂るほどに独特の「華と色気」を纏っており、それが“夜永唄”ではあの不安定で儚い感情表現の一面として、表出しているのである。

この5月から開催されるはずだった全国8公演のワンマン「神はサイコロを振らない Live Tour 2020 “理 -kotowari-”」は残念ながら中止となってしまったけれども、予定されていたファイナル公演と同日の7月10日(金)、無観客ライブの模様が『神はサイコロを振らない Streaming Live「理 - kotowari-」 at WWW X』として有料配信される。人々が不安感と閉塞感に駆られるとき、多くの心を揺らした神サイが、ステージパフォーマンスを通じてどのような表情を見せ、何を伝えるのか。ぜひ注目していてほしい。

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