妖艶かつ獰猛な生演奏と美麗なるシーケンスの接点から神秘的なダイナミズムを繰り広げ、「音楽に限界はない」を誇張抜きの現実として体現する異才=Cö shu Nie。コロナ禍による公演開催中止などを経て、Cö shu Nieは最新ミニアルバム『LITMUS』(リトマス)を完成させた。《奪われてばかりだ》、《僕らで切り開いてやる》と衝動炸裂させる“FLARE”をはじめ、初のホーンアレンジを導入してグラマラスな音像を描き上げた“水槽のフール”、めくるめく転調使いで透徹した美の世界を編み上げる“夢を金色に染めて”など、その唯一無二の音楽の美学がよりいっそう明確に刻み込まれた名盤だ。
全作詞作曲を手掛けるボーカル=中村未来と、松本駿介&藤田亮介の辣腕リズム隊とが絶対の信頼とリスペクトで繋がれた「Cö shu Nieという力学」は、この混迷の時代に生きる僕らを芯から奮い立たせる生命力に満ちている。3人に改めて訊いた。
インタビュー=高橋智樹
この鬱屈した空気感を破って飛び出していきたいっていう。“FLARE”は私なりの「今生きる人たちの主題歌」のイメージ(中村)
――1stアルバム『PURE』を引っ提げて、今年1月から全国ツアーをまわっていたわけですが、最後の大阪BIGCAT(2月28日)とZepp Tokyo(3月6日)がコロナ禍の影響で最終的に中止になってしまって。ツアーファイナルが消えてしまうという状況を、どう受け止めていらっしゃいました?中村未来(Vo・G・Key・Manipulator) 制作をしてたんですよ、ずっと。こういう時だからこそ、自分たちの今の身を守って、しっかりとやれることはやるべきだな、今こそ制作して前に進んでいくべきだなと思ったから。ずっとそっちの方に集中してました。あれは……いつぐらいだった?
松本駿介(B) 3月に入ってからは、もうやってましたね。
中村 緊急事態宣言の間は、もちろんレコーディングとかはやっていなかったんですけど。その合間をかいくぐってずっとやってました。もちろん、初のZeppっていうこともあって、そこを目指してやってきた部分もあったので……残念だったし。ただ、お客さんがね、リスナーのみんながすごく残念がってくれて。だから逆に「次に進んで、いろんなものを生み出さないと」って思えたところもありましたね。
松本 自分も、「まあ仕方ないかな」っていうイメージが強かったですね。ただ、当時は振替公演も決まったりしてたから、気持ちと体調を万全にしようっていう一心でした。まあ、そこから想像以上にコロナの深刻さが広がってきたので、余計に「仕方ないな」って(註:ツアー大阪・東京公演は7月に振替公演が予定されていたが、最終的に開催中止が決定)。その頃には制作もだいぶ進んでたから、もう他のことに目もくれずにやる、っていう感じでしたね。
藤田亮介(Dr) 僕は……結論はふたりと一緒なんですけど、やっぱりツアーが完結できなかったことで結構落ち込んじゃって。でも、その後に制作が始まって、スタジオに入って作っていってる段階で、元通りというか――何か発信していくことが、自分の元気の源になっていくんだなって。発信が何もできなかった時期は落ち込んではいたんですけど、それが徐々にできるようになって、改めて「頑張ろう」っていう気持ちでやれていますね。
――そんな中、7月に配信リリースされた“FLARE”は、Cö shu Nieなりのパンクとでも言うべきストレートなナンバーで。「今こそ抗っていこう」っていう気分がまっすぐ込められた曲ですね。
中村 込めてますね。もう本当に、こういう状況で、世の中が「陰」の方に染まりやすい状態だと思うので。だからこそ、悲しみに寄り添うことも大事だし、鼓舞して、この鬱屈した空気感を破って飛び出していきたい、っていう気持ちはすごくありました。同じ出来事を世界中の人が共有している中で、私なりに「今生きる人たちの主題歌」を書いた、っていうイメージです。物語って、ハッピーエンドに向かっていくでしょ? そういう想いを込めて主題歌を書いた感じですね。
何年も前から『LITMUS』っていうアルバムを作りたかった。世の中とCö shu Nieがどう反応するか、もっと見ていきたい、羽ばたいていきたいって(中村)
――“水槽のフール”はCö shu Nie初のホーンセクションをフィーチャーした楽曲で。ホーンアレンジも監督(中村)が担当されたそうですね。中村 やりました。Cö shu Nieにホーンって、ゴージャスすぎて、あんまりイメージがなくて――。
――ああ、どちらかというとストリングスのイメージはありますよね。
中村 そうですよね。なんかちょっと、ラグジュアリーな感じになるじゃないですか(笑)。宝石をつけたみたいな感じ。どうなんだろうな?って思ってたんですけど……今回は『LITMUS』っていうタイトルも含め、いろんな挑戦をしていきたいっていう想いを込めたアルバムだったから。「ホーンはずっと避けて通ってきたけど一度やってみたいな」と思って、ここでアレンジしてみました。
――『LITMUS』のタイトルは、あのリトマス試験紙の「LITMUS」から?
中村 はい。何年も前から『LITMUS』っていうタイトルのアルバムを作りたいと思っていて。Cö shu Nieって、ずっとロックに軸足を置いてやってきたんですけど、『LITMUS』っていう作品を出す時には、いろんなジャンルとか録り方とかと融合して、1曲1曲キャラクターをつけて作っていきたい、っていうのがあって。それと、世の中とCö shu Nieがどう反応するか、っていうところをもっと見ていきたい、羽ばたいていきたい、っていう気持ちはありましたね。
――Cö shu Nieの音楽には「異化作用」というか、その楽曲に触れることで感情なり思考が変化することまで含めて楽しんでいく、っていう側面が強くあると思うし、まさにそういう作用を象徴するようなタイトルですよね。
中村 あ、すごく嬉しいです。私も音楽にそれを求めて聴くので。
――監督が『LITMUS』っていう作品を作りたがってた、っていうのは前から知ってました?
松本 知ってました。ほんとに結構前から――2作目とか3作目ぐらいの時にはもう「(アルバム名として)つけたい」っていう話もしてました(笑)。
中村 リトマス試験紙の写真と一緒に送ってたね(笑)。
松本 結構そういう、昔からのアイデアっていうのはいっぱいあって。「ああ、ついにこのタイミングで出すんだ!」っていう感じはしましたけどね。「昔から事情を知っているメンバー感」と「ファン心理」が入り乱れて、「どうなるんだろう?」って思ってました(笑)。
藤田 不思議な感覚(笑)。