斉藤壮馬が自ら語る新作『陰/陽』。その全曲をひもとくスペシャルインタビュー!

斉藤壮馬が自ら語る新作『陰/陽』。その全曲をひもとくスペシャルインタビュー!

人間のみっともなさとか、どうしようもない部分みたいなものを、もっとストレートに表現してみてもいいのかなと思って

――続いて“エニグマ・ゲーム”。これはすごく不思議な楽曲。煙に巻かれるというか。サウンドはディスコファンクなんだけどダークな世界観が見え隠れして。これはどういうふうに作っていったんですか?

「楽曲のアイデア自体は“楽園”よりもっと前からあったんです。ただその楽曲のアイデアをどういう形で使うかが見えていなかった。今回制作を進めていく中でリズムが強い楽曲がひとつほしい、ファンクな感じの楽曲がほしいと思って作っていったんですけど。過去に、自分の楽曲で“レミング、愛、オベリスク”という曲があるんですけど、そのアレンジを清水哲平さんにやってもらっていて。洋楽っぽいグルーヴ感のある楽曲ですごくマッチした感覚があったので、今回もアレンジをお願いしたいと思いました」

――「エニグマ」は謎解きとか暗号といった意味を持つものですが。

「これはもともと、ウィリアム・S・バロウズが言及していた『23エニグマ』という思想があるんですけど、23にまつわる迷信みたいなことを書いたもので、自分もそういうアルバムをいつか作りたいなと思っていて。23曲入りの作品とか(笑)。でもさすがに今回は時間がなさそうで、一旦ここで『エニグマ』というアイデアは使ってしまおうと。楽曲的には広義の謎、秘密みたいなイメージで、探偵と怪盗がいるとした場合、実はそのどちらも自分自身だった、というような。曲としてはポップでキャッチーなんですけど、ちょっと皮肉めいた歌詞ですね。主体と客体が反転する、常に入れ替わるようなイメージです。なので僕としては勝手に、90分くらいで完結するクライムコメディのエンディングテーマみたいな、そういうユーモラスな曲かなあと思いながら作っていました。ドタバタコメディみたいな感覚もちょっとあるのかな。追う側と追われる側、どちらも楽しんでいる状態というか」

――なるほど。そしてここから、より「陰」のイメージが強くなりますよね。続く“風花”はミニマルなサウンドで、かなりベースが効いています。

「自分の音楽的好みとして、ベースの音が大きい曲がそもそも好きで。ちょっと言い方が難しいんですが、『泣きのバラードみたいな曲をとりあえず1曲やっておこうか』みたいな気持ちで着手した曲でした(笑)。自分の中では売れ線の曲というようなイメージで。だから最初は、あまりローが効いてるアレンジではなく、泣ける感じのほうがいいかなと思ってたんですが」

――確かにその思考の残り香はある気がしますね。

「そうですよね。サビはより間口が広いメロディにしたいっていうのがあって。果たして自分にそういう楽曲が作れるのかという想いもあったので、いろいろ試していたんですけど、結局制作を進めていくうちにそれは『どうでもいいな』と思えてきて(笑)。曲に合うアレンジのほうがいいなと。僕が希望するアレンジのリファレンスとしては、LOSTAGEだったんです。初期LOSTAGEみたいな、ボーカルメロディもサビだけキャッチーで、あとはそこまで際立たせないような作り方にしたいなと思いまして」

――確かにサビのメロディアスな感じとかは、斉藤さんの楽曲としてはかなり振り切ってる印象でした。

「歌ものっぽい感じですよね。これもまた、曲はフルでできていたのにレコーディングの2日前になっても歌詞が書けなくて。プロデューサーやアレンジャーのSakuさんに『自分としてはそういう歌詞は書きたくないんだけど、この曲ってめっちゃ失恋ソングっぽく聴こえるんですよね』って言ったりもしていて。でも当たり前なんですけど、レーベルもアレンジャーも別に『失恋ソングを書いちゃダメ』とは言ってないわけで(笑)」

――うん。それは斉藤さんの中でのこだわりというか(笑)。

「そうなんです(笑)。じゃあ、ひとつ書いてみればいいのではと渋々書いてみたら1時間で全部書けたんです」

――ただ、結果的にはいわゆる「失恋ソング」みたいになってないのが面白いところで。

「ですよね(笑)。今回は素直にシンプルに書きたいと思ったがゆえに――この曲は特にそうですけど――人間のみっともなさとか、どうしようもない部分みたいなものを、もっとストレートに表現してみてもいいのかなと思って」

――《ずっと私 きみのことを/見下していたんだな》っていう歌詞とか、すごいこと書くなあって思いました。かなりえぐられます。

「今あらためて自分で歌詞を読んでみても、普段の自分が書かないような歌詞だなと思います。それが逆に面白いですね。皆さんに聴いていただいた時にどう感じてもらえるか。楽しみです」

この曲(“mirrors”)を聴いてまた“楽園”に戻ると、いろんな形で反転していくと思う。そういう感じで作品を楽しんでもらえたらなと

――続いて“蝿の王”。これはウィリアム・ゴールディングの小説がモチーフ?

「実はこれはタイトルは後付けで、ふとゴールディングの小説を思い出したんですけど、どちらかというと原典としてはベルゼブル(キリスト教における悪魔のひとり)的なところで。この楽曲は、冒頭のツインギターのリフとかは自分が中学生くらいの頃から温めていたもので。今回少しパンチの効いた楽曲がほしいなと思って、そのアイデアをようやく形にすることができました。今作の中でいちばんソリッドな音色かなと。で、この曲、かなりストレートな、何かと戦っているような楽曲に聴こえると思うんですけど、『実はこんなことを歌っている』という裏テーマがありまして。《冴えたきっさきで/肉を切り裂いたら/おまえは砕け散る/さあ ドリルが廻り出した》とかは、もうまんまなんですけどね。ぜひそれがなんなのか探ってみてください。答えはあえて言わないでおきます(笑)」

――ああ、なるほど。裏テーマ、理解しました(笑)。私は完全に『蝿の王』の物語に引きずられていましたね(笑)。人間としての理性と快楽に溺れていくことのせめぎ合いだと受け取っていたんですが。

「そうですよね。まあ裏テーマがわかったからどうということもないんですが、僕としては今作でいちばんユーモラスな楽曲です。サウンド的には10代の頃に聴いていたロックンロールリバイバルの雰囲気があって、この人どんだけブロック・パーティ好きなんだよって感じで、クスッと笑って聴いてもらえたらいいかなと思います」

――ラストはファルセットの歌いだしが美しい“mirrors”。相反するものの共存というか、陰と陽を同時に映す曲。

「6/8拍子がすごく好きなんですけど、今作に“楽園”を入れるか入れないか迷った最大のポイントがこの曲にありました。6曲のうちに6/8拍子の曲が2曲もあるって相当じゃない?って。最初この曲をリードにするという発想は、僕はあまりなかったんですけど、野村陽一郎さんにアレンジをお願いして、1コーラスのアレンジを聴いた時に、あ、これはリードだとわかったというか。それで歌詞が書けたという感じでした。これはもう単純に自分の好きな残響系の音像。個人的には2サビの《まやかしてよ/偽者のぼくを》のくだりが好きです。自分が偽者だという感覚がずっとあるんですよ。だから“mirrors”っていうタイトルもそうですけど、偽者と本物って一体どういうことなんだろうという問いがずっと自分の中にあって、まだ答えは出ていないんですけど――っていう状態を歌詞にしています」

――なんとなく、聴くタイミングで受け取り方が変わる曲だなと思いました。

「この曲を聴いてまた“楽園”に戻ると、いろんな形で反転していくと思うので。そういう感じで作品を楽しんでもらえたらなと思います」

――また新たな世界観を映し出す見事な作品ができあがって、来年5月には幕張メッセでの2デイズ公演も決まりましたよね。5周年イヤーの集大成的なライブになりそうですね。

「そうですね。経験したことのない大きな会場でのライブですし、単独のライブとしては約2年ぶり。どういう内容になるのか現時点ではまだわからないですが、気取らず、その日その場所で出せる、いちばんいい音を皆さんにお届けできればいいなと思っています。ひとまずは、毎日コツコツとギターの練習に励みたいと思います(笑)」

――スケールも大きいライブになりそうですね。楽しみにしています。

「ありがとうございます」

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