リアルとバーチャルを紡ぐ次世代シーンを開拓するバーチャルシンガーMaiRは、ロックの夢を見るか?

リアルとバーチャルを紡ぐ次世代シーンを開拓するバーチャルシンガーMaiRは、ロックの夢を見るか?

(YouTubeで)低評価がつくと逆に嬉しいみたいな。「あ、届いてる。いろんな人に!」って

――バーチャルロックシンガーとしてのデビューはいつですか?

「2018年ですね。当時は、VTuber黎明期で濃いキャラ作りをしなきゃ見つけてもらえないと思っていて、スタートの頃は学生設定とかあったんですけど、今は特に設定とかなくロックシンガーをやっています」

――ロックバンドがライブハウスで活動するとお客さんに見つけてもらえて、少しずつ大きなハコへステップアップするのと、YouTube上でフォロワー数や再生回数を増やしていくことはある種、ストリート感として近いところがありますよね。

「VTuberとして活動する前から音楽活動をやっていて。最初はネットカルチャーには詳しくなかったんです。そんな時に、FKBCとライブハウスで出会って一緒に音楽を作るようになって、音楽の届け方を変えていったという意識はあります」

――2021年2月には、よりアーティスト活動に注力していくことを決意されました。意識の変化があったのでしょうか?

「最初は、それこそVTuberってかわいくしてなきゃいけないのかなっていう葛藤があったんですけど、もっとかっこいい服着たいなとか、もともと好きだったロックやりたいなって思いはじめて。それで名前も星乃めあからMaiRへ変えました」

――もともとどんなアーティストや楽曲に影響を受けて、今に至るんですか?

「音楽にハマりはじめの頃は、NIGHTMARE、Acid Black Cherryとか結構ゴリゴリした音楽を聴いていて、熱い系のロックとしては、サンボマスターUVERworldの影響を受けました。あと、coldrainSiMのサウンドも好きですね」

――おおお、結構ハードですね。

「カラオケでも男性バンドの曲ばかり歌っていました。でも、もともとはめちゃめちゃあがり症だったんです。家族の前でも歌えないぐらい恥ずかしがり屋で……。そんな時に、歌が上手な友達にカラオケに誘われて『あ、断れない……』って行って。その友達の歌を聴いて『めっちゃかっこいい!』って感動したんです。その子が音楽好きだったので、私も音楽番組を観るようになったり、歌に興味を持ちはじめて。結果LiSAさんにたどり着きました。女の子でも、こんなにかっこいいロックができるんだって大きく影響を受けましたね。理想形だなって」

――YouTubeを主戦場にしていると、再生回数やリスナーからのコメントを日々目にすることで、それがプレッシャーになることもある反面、自分を客観視できるので成長スピードが上がったりするんじゃないですか?

「どうなんですかね。ある意味、数値が指標にはなるんですよ。でも、それに落ち込むことも多くて。逆に気にしないようにしてるかもしれません。あ、でもコメントで悩んだことはないですね。みんな優しいんですよ(笑)」

――まさに、ネットカルチャーに合うタイプなんですね。

「まだアンチがそんなに多くないだけかもしれません。低評価がつくと逆に嬉しいみたいな。『あ、届いてる。いろんな人に!』って」

――なるほどね。マイナス意見も1再生や1コメントには変わらないですもんね。

「そうですね。『私を知らない人に届いた!』って実感になるんです。もちろん、低評価がほしいわけではないですけどね(笑)」

「もっとロック好きな人を増やしてやる、このやろう!」みたいな気持ちで歌詞を書きました

――この春、これまでの活動の現時点での集大成であり、次のステップとなるメジャーデビューアルバム『未完星』がリリースとなりますが、ご自身ではどんな感想ですか? 

「『やっちまったぜ』って感じです。『好きなものを作っちゃった!』みたいな。挑戦も含めて、自分らしい尖り方ができたアルバムになりました」

――現時点で、アルバムで大事な曲を3曲選んで解説するとしたらどれになりますか?

「迷いますね。あ〜、どうしよう……。やっぱり、アルバムのリード曲“疾奏”は外せないですね」

――バンドの一体感を味わえるロックチューンですよね。ご自身で作詞をされて、作曲はFKBCさんです。

「やりたいことを貫いた曲ですね。今のチャートシーンって少しロックが飽きられてきているなって感じることが正直あって。でも私はロックをやりたいから。それ以外できないし。音楽に流行り廃りはないと思っていて、どのジャンルに好きな人が多いかだけで流行りになるんだとしたら、『もっとロック好きな人を増やしてやる、このやろう!』みたいな気持ちで歌詞を書きました(笑)。アルバムのリード曲でもあるので、関連するワードを入れてみたり。レコーディングは初期衝動、勢いで録りましたね」

――バンド感を大事にしたいという気持ちが伝わってきました。タイトルも素敵ですよね。

「“疾奏”、エモいですよね。バンドサウンドが軸としてあります。そこはブレないです。イントロでセリフとともにギターのノイズが入ってるんですよ。ミックスしていただいた時に最初は切られちゃったんですけど、『ノイズ、残してもらえますか?』ってエンジニアの方に伝えて。臨場感にこだわってますね。あと“未完成アンチテーゼ”も大切な曲です」

――DECO*27のアレンジでも知られる、ポップパンクに強いRockwellさんが作曲と編曲で参加していますね。

「今回のアルバムには“未完成アンチテーゼ”、“Survivor”、“餞”、“Clover”などたくさん参加していただいてます」

――“未完成アンチテーゼ”は、アルバムのオープニング曲としてロックに引っ張っていくアッパーチューンで。

「レコーディングでは泣いてしまったんです。私、めっちゃ泣くんですよ」

――えっ、なんで? いろいろ思い浮かべて?

「いや、悔しくって。悔し泣きをよくします。初めて外の現場で泣いたのが“未完成アンチテーゼ”でした。自分の完成イメージはあるんですけど、そこに追いつけなくって。作詞も自分でしてたからこそ、その言葉が自分に刺さってしまったんですよね。最終的には“疾奏”の時と同じく、難しいことは考えず勢いで歌ったらよくなりました」

――歌詞も大変だった?

「作詞も苦戦しましたね。私の歌詞って、どうしても私自身になっちゃうんですよ。でも、“未完成アンチテーゼ”では曲にキャラを持たせたほうがいいかもとなって。じゃあ、自分自身とRPGのゲームの主人公を重ねた歌詞にしようと。私が作詞をしてきた中で初めてタイトルを先に作った曲なんです。感覚的な話なんですけど、漢字とカタカナを掛け合わせたタイトルにしたくって。そこから歌詞の物語が広がりました。自分がやっている音楽は、流行りにとらわれて個性を失いがちな時代へのアンチテーゼだと思っていて。自分にぴったりの歌詞になりました」

――Rockwellさんとは何かやり取りがあったんですか?

「“餞”の時に、最初にお話ししました。“未完成アンチテーゼ”でも、作詞の面で相談をしましたね。テーマにしたゲームの世界観を表現する難しさがあって。そうしたら秒で『自分だったらこう書きます』って送ってくれたメモが完璧で。『わ、このまま使えるじゃん』みたいな。ワンコーラス分、参考に送ってくれて」

――Rockwellさん、優しい。

「そうなんです。参考にしながら考えて。歌ってみて、仮歌を送ったら『ここは一音にしたほうがいいですよ』など、的確なアドバイスをいただきました。すごくお世話になりました」

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