フュージョンがベースにある二瓶、童謡のコンクールで何度も賞を獲ってきた経験のある林(Vo)の歌に、メンバーの中で最も最新のロック/ポップスに敏感な高橋(Key)と、ずっと真夜中でいいのに。のバックバンドも務める二家本亮介に師事する中野(B)の演奏テクニックと感性を掛け合わせて、「前衛」と「伝統」の両方を感じ取らせる音楽を生み出している。高校2年で軽音楽部内にて結成後、2曲目に書いたオリジナル曲であり、結果的にメジャーデビュー曲となった“我儘”は、A→A’→B→サビ4回という普遍的なポップスの曲構成からは大きく外れたもので、メロディや間奏、ブレイクの作り方なども予想を裏切ってくる。「普通」「王道」「流行」などとは真逆の手法を使って、メインストリームのど真ん中に曲を投げつけてくるような、そんな気概を感じさせるバンドである。
2月29日発売の『ROCKIN’ON JAPAN』にも名無し之太郎のインタビューを掲載する。誌面では、作詞を手掛けている林の死生観についても語ってもらっているのであわせてチェックしてほしい。
インタビュー=矢島由佳子
──メジャーデビュー曲“我儘”から、名無し之太郎はJ-POPのテンプレートから外れたものをメジャーのど真ん中で鳴らすぞ、という意志を感じました。4人は今の日本のポップスシーンをどういうふうに見ていて、そこに対して自分たちはどういう音楽を投げていきたいと考えているのかを言葉にしてもらえますか。たとえば、シンプルな音楽が流行ったら、その時に僕はテクい曲とか変な曲をどんどん作りたい。「波に沿った、そぐわない曲」を作りたいと思ってます(二瓶)
中野(B) 私が好きで聴いている曲は、絶対にどこかしら個性がある曲で。1回聴いただけでフレーズとかが印象に残る曲が好きで、二瓶さんが持ってくる名無し之太郎のデモはそういう曲ばかりなんですよね。個性が尖ってる曲が多いので、ベースフレーズを考えるのも楽しいです。1回聴いただけで忘れられない曲になるようにベースフレーズを作ろうということをいつも意識してます。
高橋(Key) 今「国民的バンド」と言われているようなトップシーンをいくバンドさんは、理論的にもテクニック的にもすごく高度なことをやっていらっしゃる方が多いと思っていて。二瓶の作ってくれる楽曲にも、理論的に変わっていることとか、テクニック的に難しいことが出ているなとは思います。その一方で、「ザ・バンド」っていう感じのバンドが最近好きだと言ってる人が自分の周りにもいっぱいいて。たとえばここ(目の前に置かれている『ROCKIN’ON JAPAN』の表紙)にあるハンブレッダーズ、ねぐせ。、シャイトープとかを聴いている友達も周りにいっぱいいるんですけど、その方たちは「バンドサウンド」で、「バンドをやっている」という感じがすごくある気がするんです。僕たちは、テクニカルなことや理論的にちょっと変わってることをやってる一方で、ちゃんとバンド感も残しているような、いいとこ取りをしながらやっていけてるのかなと思います。
林(Vo) 私は、自分がやりたいことや表現したいことをその場で表現しているだけというか。自分のできる範囲で、3人が表現してくれていることに上乗せできるよう、表現者という立ち位置で表現してるだけというイメージで。歌詞に関しては、人間の考えは流動的で、何分何秒の単位でも変わるものだと思うので、自分がその時に思ったことを書いています。受け取り方はその人次第で、「これを作った時の私はこういうことを考えていたよ」ということをさらけ出すことで、もしかしたら何か参考になる人がいるかもしれないし、逆に批判的に見る人がいるかもしれないし、それが面白いなと思ってます。
二瓶(Dr) 僕は、最近の音楽はなんか違うなって思ってる派の人間なんです。「伝統派」「革命派」でいうと「伝統派」寄りなのかなとは思うんですけど。人間の好き嫌いって波があるんですよ。新しいものが来たら古いものに憧れて、古いものが来たら次新しいものになっていく。今はまさに新しいものの絶頂で、次は古いものに入っていくかなと思ってて。それは技術とかもそう。たとえば、僕たちが高校生くらいの頃からOfficial髭男dism、King Gnuとかテクニック系のバンドが流行り始めて、そしたら今度は単純な演奏とキャッチーなメロディでダイレクトにメッセージを伝えてくるアーティストが出てきた。その波に沿うのもいいかなとも思うんですけど、僕、槇原敬之さんの曲とかをすごく聴くんです。2000年代初頭の曲って、そういう波には当てはまらない曲が多いなと思っていて。僕の中で色でいうと白紙部分がそこらへんの曲で、だから曲作りの前とか思考をリセットしたい時にも聴くんです。メジャーに入っていくうえで、波に乗る作り方をすることはもちろん大事なんですけど、乗り方をどうするかということをいつも考えていて。単純に乗っていったら似てるバンドにしかならないし、似てるものを作りたくないという逆張り思考がすごくある。たとえば、シンプルな音楽が流行ったら、その時に僕はテクい曲とか変な曲をどんどん作りたい。「波に沿った、そぐわない曲」を作りたいと思ってます。
──名無し之太郎の音楽は「前衛」と「伝統」の両方を感じさせるもので、童謡をルーツにしている林さんの歌や声も「伝統」の部分を担っていると思うんですけど、そもそも二瓶さんのその強い逆張り精神はどういう動機から湧き上がるものなんですか。
二瓶 僕がドラムをやっているのも同じ理由なんですけど。ドラムって、あまりやってる人がいないじゃないですか。小さい頃、楽器をやりたいと思った時に、ピアノは母がやっていたり、みんなやってるからって断って、ギターもみんなやってるからって言って、やるならベースかドラムだなと思ってドラムにいったんです。注目を浴びたくて、そのために変わったことをしたいっていうのがあります。でも、浮きたいわけじゃなくて。変わったことをして目立ちたいので、常に何かをかわしながら作ってる感がありますね。
──孤高の存在になりたいわけじゃなくて、みんながいる輪の中で目立ちたいということですよね。
二瓶 そうですそうです。外れたいわけではなく、この中で目立ちたいっていうのがあります。
──その精神があるから、名無し之太郎の音楽はJ-POPのテンプレートから外れたことをやっているのに、J-POPど真ん中に投げてくる仕立てになっていると思うんですよね。“我儘”をデビュー曲にしようというのは、すんなり満場一致だった?二瓶が作ったデモの時は「二瓶っぽい」けど、私たちが演奏すると「名無しっぽい」になる。そこが大事なところなのかなって(林)
林 レコーディングさせてもらった曲が5曲くらいあって、その中で決めるとしたら「これだよね」みたいなところはありましたね。
二瓶 僕、今のところいちばん好きな曲ですね。でも、メジャーデビューはこれがいいって打ち合わせしましたっけ?
林 ないですね(笑)。
──あ、もうナチュラルに「これだよね」ってなった感じ?
二瓶 ナチュラルにいきましたね。
中野 “融界”が先に出ていて、他の4曲の中だとこれだよね、って感じでしたね。
二瓶 “融界”をまだ出してなかったとしても、私は“我儘”でデビューしたほうがかっこいいと思った。
──二瓶さんがこの曲にそれだけの思い入れを持っているのは、どういうところが理由ですか?
二瓶 初めて北海道(出身地)以外の場所で演奏した曲が“我儘”だったんですよ。軽音楽部の時に地区大会を突破して本大会で和歌山のホールで演奏して、学校の身内以外の人に拍手をもらったのはそれが初めてで。あれ、楽しかったね。
林 楽しかったですね。
中野 あれは楽しかったですね。
二瓶 ただ、他のバンドとはやっぱり違ったね(笑)。
林 ジャンルも違うし、みんな輝いてたんですよ。「青春!」みたいな感じで。私たちは「深夜帯」みたいになってましたね(笑)。
二瓶 私たちは物々しい感じで出ていって(笑)。
──(笑)“我儘”は名無し之太郎らしさが詰まっている曲になっていますよね。「攻め」と「ポップス」のバランス、林さんの死生観、言葉遊びや考察しがいのある歌詞、この4人でなきゃ成立しないというバンド感。他の4曲も聴かせてもらいましたけど、これを一発目の自己紹介代わりのメジャーデビュー曲に持ってきたことにすごくしっくりきたんですね。
二瓶 曲を作る時も「名無しっぽさってなんなんだろう」って考えるんです。林に聴かせたら「二瓶っぽいよね」って言われることがあって、「名無しっぽさ」と「二瓶っぽさ」、何が違うんだろうなと思って。どうなんですか、みなさん。私はわかんないです。
林 感覚で言うと、曲自体は二瓶っぽいんですよ。構成だったり、音の使い方だったり、Bメロ、Cメロが気持ち悪いよねとか(笑)。そういうのが二瓶っぽいんですけど、そこに私の歌詞や声、ベースの技術、特徴的なピアノが合わさった時に、「名無しっぽさ」が出るのかなと思います。二瓶が作ったデモの時は「二瓶っぽい」けど、私たちが演奏すると「名無しっぽい」になる。そこが大事なところなのかなって。
──本当にそう思います。全員が重要な役割を担ってるバンドですよね。
高橋 この曲はいつも弾いてる時に高校の軽音楽部の部室の光景を思い出すんですよね。まだ名無し之太郎を始めて日が浅い時に、二瓶がドラムを叩きながら「なんか弾いてよ」みたいな感じで無茶振りをずっとされてて、「そんな無茶なこと言われましても」って思いながら適当に弾いてたフレーズを、あの特徴的なイントロの部分にしてくれて。
二瓶 僕は元々そんなにこだわりが強い人でもなく。まあちょっとウッってなっても、寝れば慣れるみたいな人なので、僕が作ったデモは僕の中では満足した形になっているんですけど、それは僕の経験上の範囲でしかないので、そこから抜け出した部分が出てきた時が面白いということに最近気づきました。
──言い方を変えると、高橋さん、中野さんが「二瓶っぽさ」に加えてくれるものがあるということを、二瓶さん自身も自覚してるということですよね。だからこそ、ひとつのジャンルにとどまらないサウンドになっているし、いくつかの現行シーンを継承する音にもなっていると思う。
二瓶 二瓶っぽさをちょっと削ってくれたほうがいいのかなと思う(笑)。僕の中で変わってほしくない部分はメロディラインで。正直、楽器隊はそれを消さなければいいと思ってます。メロディをいちばん大事にしたい。メロディがいちばん引き立つコードとかにしているので、それが変にならなければにっこりしてますね。