──メロディを大事にしているのはどういう考えからですか? 二瓶さんにとっての「メロディを大事にする」というのは、ただ耳馴染みがいいキャッチーなメロディにする、ということではないと思うんですけど。真面目に曲を作っててもあまり楽しくないので、どうせだったらもう意味わかんないのをやりたいんですよね。ふざけを形にしたい(二瓶)
二瓶 世の中にはいいメロディラインがたくさんあるじゃないですか。
──ありますね。
二瓶 本当はそれを僕が最初に作りたかったって、毎回思ってるんです。でも、やっぱり「何っぽい」とか言われるのが嫌で。たとえば、いいメロディがあったらそれをちょっと変えるということをやってる方は多くいると思うんですけど、そうじゃなくて、いいメロディをもう全部真反対の音程にしてみたり、そこから聴こえてきたハモりの倍音とかから「こんな音も使える」と思ってみたり。歌を歌わせるというよりは、歌にソロをさせるという感じで作りたいんです。楽器としていてほしいんですよ。
──なるほど、そこにも逆張り精神が働くわけだ。
二瓶 世の中の歌とはちょっと違う位置にいてほしいっていうのはあります。(林は)童謡を習っていたのに、ちょっと申し訳ないんですけど(笑)。
──王道をルーツに持つ人なのに(笑)。
林 もう、歌いにくいったらありゃしない。童謡って、“ぞうさん”、“森のくまさん”とか、本当にわかりやすい曲なんですよ。メロディも段階的に上がっていって、段階的に下がっていったりするのが普通なんですけど、名無しの曲は、下がったと思ったら上がったり、いきなり最高音から来たりするので難しい。その反面、楽しいですね。
二瓶 (王道の)裏にいてほしい、みたいな気持ちがあります。たとえば、「普通だったらこのメロディだよね」というところを、あえてハモりの部分をメロディにしちゃったり。それが気持ち悪いって言われるところだと思います。真面目に曲を作っててもあまり楽しくないので、どうせだったらもう意味わかんないのをやりたいんですよね。ふざけを形にしたい。僕の中で、それはいちばん“嘘つき”(3ヶ月連続配信の1曲)に出てます。
──自分たちでは、ポップさを保っている所以はなんなのか、どういうふうに考えているんですか?
二瓶 ポップに聴こえると思ったことないんじゃないかな?
中野 結果的にそう聴こえてるだけかも。
林 楽器構成がシンプルだからこそ、メロディラインが生きるっていうのはあるかもしれないですね。
二瓶 ギターを入れてみようってちょっと遊びで思ったりしても、何を入れたらいいかわからなくてやめちゃうので、たぶん楽器は増やせないですね。
──ストリングスとか入ったものも聴いてみたいなとか思っちゃいますけどね。
二瓶 実はその路線が今いけると思ってて、最近作ってる曲はそればっかりなんです。ジャズとクラシックを合わせたらどうなるんだろうと思ってて。そこで今までにない路線を開拓してる途中です。ジャズとクラシックって王道じゃないですか。そのふたつを合わせた時にどういうふうに外れていくんだろうっていうのがすごく楽しみで。それでメジャーにぶっこんでいったらどう見てくれるのかなと気になっていて、ジャズとクラシックの混合を試行錯誤してる段階です。
──3月、4月には“嘘つき”、“カラヤブリ”が、3ヶ月連続リリースされます。今二瓶さんが言ってくれた方向性の曲はその先になると思うけど、“嘘つき”、“カラヤブリ”も今日話してくれたクリエイションに対する姿勢が存分に発揮されているうえに、「どう生きるのか」「死とは何か」という林さんの思想が濃く表れている2曲ですよね。そもそも、林さんはなぜ死生観を歌詞に落とし込むのだと思いますか。最初に言ってくれたように人間の考えは流動的だから、この先変わっていくこともあるとは思うんだけど。人って、いつ死ぬかわからない。そういうことを多分、ずっと考えてるんだろうなとは思います(林)
林 なぜなんだろうな。その時に考えていたのが生と死についてだったというのはあって。「メメントモリ」、死があるからこそ今を生きることを大切に、というのはいつも考えていることで。人って、いつ死ぬかわからない。そういうことをたぶん、ずっと考えてるんだろうなとは思います。あと小さい頃からミステリー小説が好きなんですよ。殺人とか生と死をテーマにしたものが好きだったりもして。小さい時からそういうものに触れていたというのもあるとは思うんですけど、生と死について考えることは多いですね。
──そういった音楽を届けている名無し之太郎にとっては、ライブも重要な場になってくるんじゃないかと思います。4人の演奏テクニックが合わさった時の迫力がいちばん伝わる場でもあるし、林さんの歌詞は誰かの生命に寄り添うものだと思うから、ライブを生きがいにするファンもこの先増えていくと思う。ライブに関しては、どういったものを作っていきたいと考えていますか。
中野 私たちの演奏で圧倒するようなものにしたいなと個人的には考えてます。劇場みたいなイメージ。
高橋 名無し之太郎を知らない人とか、名無し之太郎をそこまで好きじゃない人でも、ふらっと来られるライブもいいのかなと思ってて。いろんなジャンルの曲があるから、刺さる曲、刺さらない曲は人それぞれだと思うんですよ。「この曲はめっちゃ好き」「この曲はそうでもないけど」みたいな感じになっていくのかもしれない。だから1曲でも2曲でも名無し之太郎の曲が好きだという人がふらっと遊びに来られるようなライブにして、そこに来たら名無し之太郎の世界観に閉じ込められてしまう形が理想なのかなと思います。
──二瓶さんが、現時点でこのバンドで果たしたいと思っていることはなんですか?
二瓶 どちらかというとマイナーな立ち位置にいるのかなと思っていて。正義のヒーロー感はないじゃないですか。ダークヒーローとか、そっち側なのかなって。誰かに勝ちたいというよりは、逆の位置で輝けたらいいなと思ってます。絶対に、どこかの片隅にいるような存在にはなりたい。それで誰かにとっての真ん中にいられればいいなと思います。