──2曲目の“MIRROR”が今回のリード曲で、USインディーっぽい音作りが魅力的な楽曲です。メロディはポップでキャッチーなんだけど、サウンドは不思議な没入感があって。プログラミングも大智さんが手がけていて、ビートは打ち込みですけど、さすがドラマーなだけあって目線が細やかというか。「自分の物差しを持つ」「自分の価値観を大事にする」というテーマが、このプロジェクト自体にある
“nerve impulse”以外の3曲がむしろポップなんですよね。“MIRROR”は打ち込みで作りたくて、ビートは意識して作っていて。ソロでは打ち込みの楽曲もやっていきたいと思ってます。PCを使ったプログラミング的なサウンドに振り切るのも面白いと思うし、逆に一切機械音は使わない、みたいな原始的なサウンドもできるし──いろんな構想があって。
──この曲はギターが木下哲さん、ベースが安達貴史さんという布陣です。
ダッチさん(安達)はDISH//でも弾いてくれているベーシストなので、ダッチさんに任せておけば大丈夫という安心感があります。2Aのベースのアレンジも、「こうしたい」っていうイメージを口頭で伝えたら、すぐイメージ通りのものを出してくれるし、いろんな提案もしてくれるし、すごくやりやすいんですよね。木下さんは初めてお会いしたんですけど、話してみるとオルタナティブな音楽が好きらしくて。それこそレッチリ(レッド・ホット・チリ・ペッパーズ)のジョン・フルシアンテがすげえ好きとか、ルーツ的に重なる部分がありました。
──“MIRROR”はギターのアンサンブルがとても美しいです。木下さんの弾くアコギとエレキに大智さんのギターも重なっていますが、闇雲な分厚さではなく、とてもバランスよくまとまっていて。“nerve impulse”で衝撃を受けた人が、“MIRROR”を聴いてまた驚くというか。
サウンドを少しキラッとさせたいというか、そんなに重い曲にはしたくなかったので、アコギも入れたし、ギターの音色も浮遊感をイメージして。それこそ2曲目に“Deep Meditation”を置いてしまうと、「ああ、ソロはそっち系ね」ってくくられてしまいそうだったので、対比として“MIRROR”を持ってきました。
──“Deep Meditation”は確かに“nerve impulse”と地続きにあるようなヘヴィなロックサウンドで、大智さんのラップも炸裂していますよね。
“Deep Meditation”は、最初に思いついたベースのリフから作っていって。レイヴっぽい感じ──プロディジーみたいなノリにしたかったんです。この曲は生バンドでレコーディングしたんですけど、生にしたら印象がすごく変わって、よりミクスチャーな感じになりました。
──確かに言葉が強いというか、プロディジーのようなアジテーションのニュアンスが強い曲で。《なにが真実か見失うなよ》とか、歌詞がしっかり耳に飛び込んできます。
わりとメッセージ性が強いかもしれないですね。ラップって喋り口調に近いぶん、意外と言葉が出やすかったりするし。
──この曲で伝えてるのは「ちゃんと自分の頭で考えて動いていかなきゃ」というメッセージですよね。大智さんには日々そういう思いがあって、それを伝えていきたいという気持ちが、ソロプロジェクトの原動力にもなっているのではないかと思いました。
まさにそうです。「自分の物差しを持つ」「自分の価値観を大事にする」というテーマが、このプロジェクト自体にあるし、数字とは別のところで本質を見たいなという気持ちがあって。そうなっていけば、世の中もよりよくなるんじゃないかと思う瞬間も多いし。このソロプロジェクトは自分にフォーカスが向いていて、自分が思っていることや表現したいものを突き詰めるものなので、ちゃんと自分と向き合うことが大事だと思っています。だから必然的にこういう言葉が出てきたんだと思います。
──最後に収録されているのが“wandering”。構成もアレンジもユニークで、今作でいちばん生っぽく「歌」が響く曲でもあります。DISH//は大きなバンドになるべきだし、いろんな人に広く響くバンドだと思ってます。そんなバンドの一員としてソロをやることに意味があるなって
この曲、最初はただのアコギの弾き語りだったんですよ。だからこそ、アレンジ次第でかなりポップになると思っていたんですけど、ポップにはしたくないなと。きれいなメロディだけど、まわりで鳴っている音楽はカオスな感じというか──最初からそういうイメージが頭にありました。
──「生命の歌」だと感じたんですけど、このテーマはどういうきっかけで生まれてきたんですか?
2月の頭にひとり旅でインドに行ってきまして。もともとインドにはめちゃくちゃ興味があって──インドにすごく影響を受けてるビートルズがめちゃくちゃ好きだったり、インドの価値観にも興味があったり。前から行きたかったんですけど、ソロの活動が始まる前に行っておこうかなと。“wandering”にはインドで感じたことが投影されていると思います。
──《川は流れて》という歌詞もありますけど、この歌詞に出てくる川はガンジス川なんだ!
まさに(笑)。
──この曲から感じるスケールの大きさの理由は、インドにあったんですね。この曲に書かれているような「生きること」「生まれてくること」を、インドに行って考えさせられたという?
はい。インドは貧富の差とか、ほんと激しくて──そういうのもすごく考えさせられたし。インドに行ってわかりやすく悟って帰ってくるのも安直だよなって思っていたんですけど、やっぱり衝撃を受けることがあって……自然とこういう思考になりました。
──「生まれてくること」は祝福でもあるんだけれど、それは、これから悲しみや痛みに出会いながら歩いていくことでもあるというか。
ほんとに、それをすごく感じました。あと、みんな助け合って生きているというか──仕事してるのかどうかわからない人もいっぱいいて、でもそういう人たちはお金を持ってなくても幸せそうに暮らしていて。すごく汚い格好の子どもたちもめっちゃ笑顔で遊んでいたり。むしろお金を持ってる人のほうが苦い顔してるというか。いろんな価値観を受け取りましたね。
──この楽曲を含め全4曲、大智さんが常々考えている「愛」や「生」というテーマが詰め込まれているような気がします。大智さんは以前コラムで「誰にでも世の中を変えられるパワーがある」「もっと自由でもっと愛のある世の中にしたい」というようなことを綴っていましたよね。
コロナ禍に書いたコラムですね。あの時がいちばん研ぎ澄まされていたかもしれないです。自分が考えていることがクリアになっていたし。その時に思ったことも、このソロプロジェクトと地続きで繋がっていますね。
──あと、「大衆に向けた音楽=商業的な音楽だとは思わないでほしい」という記述も印象に残っています。たとえばマイケル・ジャクソンのやっていることは「商業音楽」と見られがちだけど決してそうではなくて、「そこに愛があるかないか」が重要なのだと。だから大智さんの中では、DISH//もソロも、愛を持って臨める自分の音楽だということですよね。
DISH//はほんとに大きなバンドになるべきだし、いろんな人に広く響くバンドだと思っています。そんなバンドの一員としてソロをやることに意味があると思っていて。ビートルズってポップで大衆的なバンドですけど、すごく前衛的な曲も書いていて。以前、ビートルズを心理学的に解析した記事を読んだことがあるんですけど、「ビートルズはポップさを持っているからこそ、前衛的な楽曲でも受け入れられる」というようなことが書いてあったんです。ビートルズに対する大衆的な信頼があるじゃないですか。人となりまでわかっている人たちが前衛的な音楽をやるから聴ける、受け入れられるというのは、まさにそうだなと。DISH//があるからこそ、今、ソロプロジェクトができるという感覚があります。
──「音源が先で、ライブはそのあと」という話もありましたが、ライブについて何か思い描いていることはありますか?
ツアーもやりたいですし、普通はやらないようなところでもライブができたらいいなと思っています。いつもドラムで座ってますけど、ほんとは動きたい人間なんですよ。座っていられない人間なので(笑)。だからステージを歩き回れるというだけで、めちゃくちゃワクワクします。
──今後、フルアルバムの制作も考えていますか?
アルバム制作がいちばんやりたいことかもしれないです。1曲単体もいいんですけど、アルバムとしての作品づくりがいちばんワクワクしますね。アルバムを通して音楽を聴くことが好きなので。コンセプトアルバムとかもめちゃくちゃ好きだし。
──今後はDISH//の活動とともにソロも続けていく、ということですね。
そうですね。今回の制作を通して「もっとぶっ壊していいな」と思う瞬間もあったし、EPを作ったうえで「まだまだ余白ありまくりだな」と思えたので。このプロジェクトは、チャレンジしないと意味ないと思うんですよ。俺がいろんなことにチャレンジしている、という姿勢自体がメッセージになると思うから、チャレンジし続けないとダメだなと思っています。
スタイリング=鴇田晋哉
ヘア&メイク=宇田川恵司(heliotrope)
衣装協力=LABORATORY®(LABORATORY® 03-5414-3190)