【インタビュー】ロックバンドの新星、シャイトープ。メジャーデビューを控える今、知られざるバンドヒストリーと「変化と不変」の生き様に迫る

【インタビュー】ロックバンドの新星、シャイトープ。メジャーデビューを控える今、知られざるバンドヒストリーと「変化と不変」の生き様に迫る
3月29日、全国ツアー「オードブル」の横浜公演で発表されたシャイトープのメジャーデビュー。

代表曲“ランデヴー”のストリーミング再生回数は2億を超え、地上波の歌番組に出演し、フェスで超満員の観客を前にパフォーマンスする──次世代バンドとしては異例のスピードで快進撃を続けてきた彼らからすれば当然の流れのように感じるかもしれないけれど、僕は「シャイトープはメジャーデビューという道を選んだんだな」と思った。なぜなら、華々しい経歴の背後で彼らがロックバンドとして地道に活動してきたのを見てきたからだ。コンスタントに「いい曲」をリリースし続け、バンドの勢いに対して堅実な規模の会場でツアーを回り、追い風にも向かい風にも吹き飛ばされず、シャイトープは「ロックバンドであること」を守り続けてきた。

そんな彼らが、なぜメジャーデビューという道を選んだか。佐々木想は、発表に際して「メジャーデビューをするという1つの変化を、僕は進化のために、高みを目指すために選びました」「変わっていくものと変わらないものその両方を愛していけたらと思っています」というコメントを綴っている。シャイトープはいつも日常を歌っているけれど、日常とはまさに絶えず「変わっていくもの」。その変化の中にある「今」を切り取り、「変わらないもの」として僕らの生命線とするのがシャイトープの歌であり、メジャーデビューを機にその生命線はより太く長く、より多くの人の日々を繋いでいくはずだ。その前夜である今、あまり知られていないシャイトープの約2年の歩みを振り返りながら、「変化と不変」が織り成すバンドの生き様に迫りたいと思う。

インタビュー=畑雄介 撮影=北岡稔章


【インタビュー】ロックバンドの新星、シャイトープ。メジャーデビューを控える今、知られざるバンドヒストリーと「変化と不変」の生き様に迫る

初めて曲を作った中学の時にはもう「ミュージシャンになるんだ」って思ってて。THE BLUE HEARTSがすごく好きで、甲本ヒロトさんや真島昌利さんの生き様に感化されてたんです(佐々木)

──まずはメジャーデビューの決定、おめでとうございます! メジャーデビューを控えた今、2022年6月に結成されてからの約2年の歩みを皆さんと一緒に振り返っていければと思っています。

佐々木想(Vo・G) よろしくお願いします!

──皆さんはバンドを組む前から、大学の音楽系の部活で一緒に活動されていたとのことで、「バンドメンバー」になる前の顔があったと思うんですけど、それぞれの初対面はどんな印象でした?

タカトマン(Dr) 佐々木とは同学年なんですけど、「新入生で自由にバンドを組んで発表しましょう」みたいな会で初めて歌を聴いた時、ちょっと引くくらい上手くて(笑)。ものすごい力を目の当たりにして、唖然とした記憶が残ってますね。その会で佐々木はバンドをふたつ組んでて、僕が佐々木の歌を聴いたバンドではSaucy Dogの“いつか”を歌ってたんですけど、僕と組んでたほうのバンドではリードギターとして雇ってたんです(笑)。

──引くくらい歌が上手い人をギターとして(笑)。想さんからタカトさんへの第一印象はどうでした?

佐々木 第一印象は……最悪でしたね(笑)。

タカトマン ははは。

佐々木 部活に入る前に新歓でお花見をしたんですけど、同じシートにタカトがいて。なんかアロハシャツを着てて、髪の毛も大茶髪(おおちゃぱつ)だったんです。僕は自分のことを暗いところにいるほうの人間だと思ってるんですけど、それと真反対の太陽みたいな人間がきて……なんかちょっと、嫌だったという(笑)。

──(笑)でも、それが巡り巡ってバンドを組むまでに至るわけですからね。

佐々木 不思議ですよね。第一印象がよくなくても一緒にバンドを組むことになるっていうのがすごく不思議だなと今も思ってます(笑)。

──そして、まさきさんは想さんとタカトさんのふたつ先輩なんですよね?

タカトマン そうです。彼は今のスタイルのままのマッシュヘアで、身長が高くて、ベースが似合うっていう三拍子揃った人で。かっこいいなと思ってたんですけど、話が合うかどうかはわからない先輩だなあと思ってました。シャイトープと別のバンドに誘ってもらったんですけど……やっぱり真面目な人でしたね。

ふくながまさき(B) (無言で頷く)

──3ピースバンドって奇数だからバランスがすごく大事になってくると思うんですけど、どちらかと言うとシャイな想さんとまさきさんの他に、タカトさんみたいな明るいキャラクターがいるのが、いいバランスに繋がっているのかなと勝手ながら思いました。

佐々木 最近特にそう思いますね。ライブしたりスタジオ入ったり、ご飯を一緒に食べたりする中で、やっぱり相性はすごくいいなと。

──部活ではアーティストのコピーバンドがメインだったと思うんですけど、そもそも「自分の曲を作りたい」と思うようになった動機はなんだったんですか?

佐々木 初めて曲を作ったのが中学2年か3年の時なんですけど、その時にはもう「ミュージシャンになるんだ」って思ってたんですよ。……となると、やっぱ自分の曲がないとダメだということに気づいて。

──まず「ミュージシャンになる」という動機があったのは珍しい順序だと思うんですけど、なぜミュージシャンになりたいと思ったんでしょう? 「自分もこんなふうに声援を受けてみたい」と純粋に思ったのか、それともその先にある「ミュージシャンになることで、多くの人にメッセージを発信できるようになりたい」と思ったのか。

佐々木 漠然とはしてたんですけど、いちばん強い理由としては──生き様みたいなものに憧れていたから、ですかね。当時THE BLUE HEARTSがすごく好きで。甲本ヒロトさんや真島昌利さんには生き様があるし、自分の考えを発信されている。そこに感化されてたんだと思います。

【インタビュー】ロックバンドの新星、シャイトープ。メジャーデビューを控える今、知られざるバンドヒストリーと「変化と不変」の生き様に迫る

バンドで音楽をするということにすごく幸せを感じます。曲を作って、初めてせーので音を鳴らす瞬間が、何よりも好きなんです(タカトマン)

──まさきさんとタカトさんもオリジナルバンドで活動されていたとのことですが、オリジナルバンドをやろうと思ったのはどういった理由からでした?

ふくなが 「好きなバンドのベーシストみたいになりたい」っていう憧れからだと思います。「いずれはそういう人と一緒の舞台に立ってみたい」っていう気持ちもあったし。あと、コピーバンドをしてる時に「この小節にこのフレーズ入れたらもっとかっこいいのにな」って思う時があって、自分のバンドの曲にベースをつけるのをやってみたかったんですよね。シャイトープを始めてからも、よく「歌詞を引き立たせるベースを弾きたい」みたいなことを言ってるんですけど、最初にそう思うようになったのはそこからだったと思います。

タカトマン 自分はバンドで音楽をするということにすごく幸せを感じるタイプだったのが大きいですね。バンドというチームに所属することにも幸せを感じるし、そのうえで曲を作って、初めてせーので音を鳴らす瞬間が、何よりも好きなんです。

──そうして結成したバンドで、2023年の6月30日に『マーガリン / 部屋』という2曲をリリースされて。最初に出した曲が1曲じゃなくて2曲だったのが、シャイトープをまさに象徴してると思うんです。“マーガリン”といううだつの上がらない日常の中で一歩踏み出す決意を歌った曲と、“部屋”という過ぎ去ってしまった日々を抱きしめるバラード──この両面的な2曲があってこそシャイトープだと。そういった2曲のバランスは、その後の『pink / ミックスジュース』『誘拐 / ランデヴー』『桃源郷 / タビビト』『Burn!! / わすれない』にも引き継がれていて。

佐々木 それはもう、すり減るぐらい言ってるんですけど、やっぱりバランスを意識してのことですね。アッパーでグワーっていく曲と、しっとり聴かせる曲、そのどっちもがシャイトープらしさだと思うし、どっちも強みにしたいっていう思いがありました。


──よく「人生の喜びと悲しみと日常にある些細な幸せに寄り添いたい」と話されていますけど、その意識もこのタイミングからあった?

佐々木 あったと思いますし、それが今はより強くなっています。曲を作っていくことによって、その意識がちょっとずつ深まるというか固まっていて。あと、曲を聴いてくれてる人のリアクションも深く関わっていますね。日常に寄り添った曲を歌うことが、自分たちの音楽を聴いてくれてる人にとっての喜びや幸せになると、時を経てわかっていったので。

──さっきの2曲のバランスのたとえから外した『tengoku / Summer Conte』の“Summer Conte”は、『部屋 / マーガリン』の2曲のどちらの方向性にも当てはまらない曲ですよね。グルーヴィーなリズムの中に言葉を落としていくような曲はシャイトープには珍しいですけど、この曲を作った時のことは覚えてますか?

佐々木 こういうグルーヴィーな感じの、ちょっとおしゃれな曲を作りたいっていう気持ちがあって、ギターをポロポロ弾いてる時にそのかけらが降りてきたんです。その時、奇妙礼太郎さんが歌ってた“天王寺ガール”のライブバージョンをすごく聴いてて、そこからインスピレーションをもらったのを覚えてますね。


──曲によってインスピレーションの立ち上がり方は違うんですか? 「こういう曲を作りたいな」と思う時もあれば、「こういうメッセージを歌いたいな」と思う時もある、みたいな。

佐々木 どちらかというと、「これを伝えたいんだ」っていう思いが先行して書くことはあまりないのかなと思っていて。歌詞を作る時もそうで、たとえば“ランデヴー”っていう曲の歌詞に《クリームパン》が出てくるんですけど、あそこは別に《クリームパン》じゃなくてもよかったんです。そういう意味では、作っていくうえで──俺、何言ってんだろう?(笑)。……あの、ちょっと待ってくださいね、今なんかちょっと頭の中がクリームパンでいっぱいになっちゃって(笑)。

タカトマン・ふくなが ははは。

佐々木 ──あ、わかりました。「歌詞はリスナーのもの」っていうテーマはずっと自分の中にあって、それを第一に考えた時に、あそこは《クリームパン》じゃなくてもよくて……という話はいったんちょっとポイっとして(笑)、要するに「これを絶対伝えたいんだ」っていう思いで、1行目を書き始めることはあんまりないんです。ふと浮かんできたフレーズを書き留めて、「どういう歌になるだろう」「何を伝えられる曲になるだろう」っていうのを考えながら生み出していくのが、今の自分のスタイルなんじゃないかなと思ってますね。

次のページ「とりあえずこれでよし」みたいにできないタイプなんです。選択肢、可能性、ポテンシャルがまだまだあるんじゃないかって、常に思ってる(佐々木)
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