──ROCKIN'ON JAPANで初めて取材させてもらったのは、その『tengoku / Summer Conte』がリリースされたあと、『Burn!! / わすれない』がリリースされる前の2023年9月で。当時は“ランデヴー”のバイラルヒットに対する戸惑いも大きかった印象なんですけど、同時に自分がバンドマンとしてやっていく手応えができた期間だったとも思うんです。当時の心境としては不安が大きかったですか? それとも「よっしゃ、来たぞ!」みたいな感じでした?「とりあえずこれでよし」みたいにできないタイプなんです。選択肢、可能性、ポテンシャルがまだまだあるんじゃないかって、常に思ってる(佐々木)
佐々木 その両方ですね。もちろん「来たぜ!」っていう気持ちもありましたけど、「え、まだ行くの?」みたいな感じで、困惑してました。……そもそも、“ランデヴー”は絶対録るって感じの曲じゃなかったよね?
ふくなが そうだね。
佐々木 「“誘拐”ともう1曲何録る?」「“ランデヴー”とかは?」くらいの空気感で録って、蓋を開けたらすごいことになってて……意外とわからないものだなと。
──その時のいろいろな感情が、“Burn!!”に刻まれた《表現者(アーティスト)》としての思いにそのまま出た、と話されていましたよね。「音楽で誰かを救いたい」「『ロックバンド』っていうのを忘れずに、『なんのために音楽をやってるんだ』って死ぬまで自問自答し続ける」という思いを語ってくれましたが、それはこのタイミングで醸成されたものだったんでしょうか?
佐々木 きっかけとしてはデカかったですね。もともと「自分たちはロックバンドなんだ」っていう気持ちはあったんですけど、それがもっと強くなりました。
──そういう自分たちを取り巻く環境の大きな変化の中で、シャイトープの初となるワンマンライブ「SEICHI」が10月に開催されました。
佐々木 最近、1stワンマンの映像を振り返って観たんですけど、振り返ると……やばかったですね(笑)。ボーカル&ギターとしての演奏も、フロントマンとしての振る舞いもMCもグダグダで、映像を観た時に、すっごく自己嫌悪なっちゃって絶望してました。
──いや、観てるほうとしては素晴らしいと思ってましたよ! 皆さんも映像、観ました?
ふくなが 観ました。ほんまに想くんと一緒の感想です。
タカトマン もうなんか、いたたまれなくて……(笑)。やっぱ、時間が経ったんだなと。当時も本気で臨んで、精いっぱい出し切ったつもりではいたんですけど。
──でも、「今だったらこうしない」とたくさん思えたということは、この半年でめちゃくちゃ成長したってことでもありますよね。その後の全国ツアー(LIVE TOUR 2024「オードブル」)を経て、自分たちのライブパフォーマンスが変わっていった自覚があるということでしょうか?
佐々木 変わった部分はかなりあると個人的に思ってて。だからこそ、そのギャップが浮き彫りになっちゃってます。
──自分たちの曲に関してもその意識はあります? 昔の曲を聴いて、「今だったらこうするのにな」という。
佐々木 ありますあります。アレンジとか、「なんでこうしなかったんだ」みたいな気持ちは常にありますね。
ふくなが めちゃくちゃあります。
佐々木 でも、それこそがレコーディングだと思いますね。その時々の今をパッケージして、みんなに聴いてもらう、という。
──その時々の今を1作にまとめたのが、この1月にリリースされた1stフルアルバム『オードブル』だったと思うんですけど、アルバム制作はどうでしたか?
佐々木 アルバムは……とにかく「曲が足りねえ」って思ったのを覚えてます(笑)。「曲、作んなきゃ」っていう。
──曲を作る人にはいろんなタイプがいて、1日で曲を作る人もいれば、時間をかけて悩みに悩み抜いて曲を作る人もいて。想さんは後者?
佐々木 そうですね。どっかで引っかかるとこが出てきちゃうというか……「とりあえずこれでよし」みたいにできないタイプなんです。選択肢、可能性、ポテンシャルがまだまだあるんじゃないかって、常に思ってるから。
──曲作りに時間がかかる、というのは自分の中の目標設定が高いということでもあると思うんです。メジャーデビュー発表の時のコメントでも「メジャーデビューをするという1つの変化を、僕は進化のために、高みを目指すために選びました」と書かれていましたけど、その「高み」とは、今のシャイトープにとってどういったものだと考えていますか?メジャーデビューは多くの人に聴いてもらえるチャンスを得たということで、それを意識したら、ベースラインを作るのが難しくなって。自分らしさを出しながら、いい曲に仕上げるためのベースを作ることに悪戦苦闘してます(ふくなが)
佐々木 飾らずに言っちゃうと、「売れる」ってことかなと思ってます。「売れる」ということは、今以上にもっとたくさんの人に聴いてもらう、もっとたくさんの人に喜んでもらえるっていうことで、メジャーデビューする意味って結局そこなんじゃないかなと。自分たちの曲、演奏を、もっともっと広げていくという意思をブレずにちゃんと持ってなきゃだめだなと。最近、すごく夢を見るようになったんですよ。「夢」──は、でっかいものを持ってるんですけど(笑)、それとは別の、寝る時に見るほうの夢。その夢に、最近Mr.Childrenとスピッツが出てきて。Mr.Childrenとは何かのイベントで一緒になったという設定で、「うわっ、これ今しかないぞ」って思いながら会いに行って、気づいたら、泣きながら正座してたんです(笑)。
タカトマン (笑)。
佐々木 泣きながら正座して、「僕はあなたたちのおかげで音楽をやめずに今やってます」って熱弁してたのを、起きた時に鮮明に覚えてて──そういう人たちへの憧れがモチベーションになって、前向きに進めてるんだと、最近再確認しましたね。
──まさきさんはデビューに向けてどう思っていますか? メジャーデビューのコメントは、わりとフラットだなと思ったんですけど(笑)。
ふくなが 文量、すごく少ないですね(笑)。メジャーデビューはすごいことだとは思ってるんですけど、デビューしたからといって環境が変わるわけではなくて、メジャーデビューをきっかけに多くの人に聴いてもらえるチャンスを得たということなので、このタイミングでどう思う……っていうのはそこまで自分の中になくて。これから頑張ろうっていう気持ちがいちばん強いです。
タカトマン 自分はふたりへの感謝が大きいですね。このふたりがいなければ、ここまでの道のりはなかっただろうし、音楽をやってたかもわからないので。今、バンドをやれてることへの感謝が、メジャーデビューに向けた文章に表れてしまって、僕だけ「あれ、違う路線だな」と思ったんですけど(笑)。
佐々木 めっちゃいい、めっちゃいい。
タカトマン 「めっちゃいい、めっちゃいい」って毎回言ってくれるんです(笑)。もちろん今までも音楽に向き合っていたんですけど、今以上のものを音楽の形で出せるバンドになるという決心ができました。
──僕もタカトさんのコメントにはグッときました。コメントで想さんは「この決断の裏側に、変わらずに持ち続けていたいものがあります。それは"本当の自分"と、いつも応援してくれるみんなへの"感謝"です」とも綴られていて。この「本当の自分」っていうのがシャイトープの芯にあるものだと思ったんですけど、どういうニュアンスでこの言葉を使ったんですか?
佐々木 「本当の自分」とは、シンプルに言うと、自分の書きたいものを書くし、歌いたいものを歌うし、バンドとしてふたりにもやりたいようなアレンジをやってほしいということで。自分の中で「やりたいこと」とか「正解だと思うこと」をちゃんとブレずに持ち続けていたいという意味で書いている……気がします。
──そのコメントには「変わっていくものと変わらないものその両方を愛していけたらと思っています」という言葉もありましたが、それを実感したのがメジャーデビュー発表後に出た新曲“skin”でした。イントロを聴いた瞬間に、「アコギとピアノ!?」って思って、めっちゃびっくりしたんですけど(笑)、サビに向かうにつれて、ベースとドラムが入ってきてサウンドの視界がグッと開けて「あ、いつものシャイトープだ」と安心する──まさに「変わっていくもの」と「変わらないもの」が同居した曲だと思いました。タイアップに向けて書き下ろした曲は初めてだと思うんですけど、やってみてどうでした?
佐々木 書き下ろしはテーマが決まっていて、ある程度選択肢が狭まってる状態からのスタートなので意外とやりやすかったですね。「次のシングルに入る曲をイチから作るぞ」というのとは別だったので。
──それでいうと……メジャーデビューをするということは、メジャーデビュー曲があるということで。その曲を作ることには苦労されてたりします?
佐々木 そうですね。あとちょっと……っていうところまではきてるんですけど。何回も「あれがいいかな、これがいいかな」みたいな紆余曲折を経て、「これならまあ出せるかな、どうかな」みたいに固まったものがようやくできて。それをこの間ふたりに送って、今作ってもらっています。
──今、絶賛制作中なんですね。おふたりは、曲を受け取ってどう思いました?
ふくなが 自分は結構現実主義なので、「メジャーデビューはきっかけだ」ってさっき言いましたけど──それによって責任が伴ってくるなと。ベースラインを一つひとつ作るにあたっても「より多くの人に聴いてもらうためには」ということをちゃんと意識しないといけないなと思ったら、ベースラインを作るのがすごく難しくなって……。自分らしさを出しながら、いい曲に仕上げるためのベースを作ることに悪戦苦闘しています。
タカトマン ドラムは……うーん、どうなんだろう、かっこいい曲にしたいっすけど、難しいんですよね。まだちょっと……ごめんなさい、制作途中で(笑)。
ふくなが でも、いい曲だと思いました。
タカトマン そう、すごくいい曲だと思います。
佐々木 メジャーデビューの曲を何にするかみたいなのはずっと考えてて……。“マーガリン”とか“タビビト”、“Begin Again”の系譜に位置する、気持ちを吐き出したような曲を作れたらなと思っていて。誰かが聴いてくれて、その曲を聴くことによってちょっとでも前向きになれたり楽になれたり、「自分もそうだよ」って共感してくれたりしたらいいなと思っています。
──すごい曲が仕上がりそうで、完成を楽しみにしています! できあがってからの話はぜひROCKIN'ON JAPAN誌面でたっぷり聞かせてください。
全員 よろしくお願いします!
ヘア&メイク=Mien(Lila)