──清らかできれいな曲ですけど、どことなく不穏さがありますよね。歌詞を聴かせる力がある声なので、作詞家冥利に尽きますよ。アーバンギャルドの特殊な世界観、言葉の感じを聴かせられる歌手がいてよかった(松永)
松永 そうですね。静謐な中に不穏さが漂っているというのは、浜崎容子作曲という感じがします。僕は、こういう曲は書けないです。作る曲の方向性の違いは、3人それぞれにあるんです。おおくぼはプログレ要素というか、展開の多い曲。浜崎さんの曲は、歌い上げたりしますよね?
浜崎 そんなことないよ。懐かしい感じというか。
おおくぼ シャンソン的な陰鬱な要素を感じますね。
浜崎 おおくぼさんがアレンジを中心になってやっているんですけど、絶対的な信頼を置いているので、「なんとかしてくれるだろう」と思っています。
──容子さんの歌声によって生まれる絶妙なバランスというのも、アーバンギャルドにはあると思います。血生ぐさい表現をしても爽やかに届いてくる感じがあるバンドなので。
松永 “セーラー服を脱がないで”という曲のMVで血まみれになりましたけど、そこからずっとそういうことをやっているバンドですからね。
──『メトロスペクティブ』に収録されている“アング・ラグラ”のMVも血まみれでしたし、KISSと並ぶくらい血糊の消費量が多いバンドですよね。
松永 はい。赤坂BLITZでモニターに血糊がかかって、ネットを弁償したこともありました。
浜崎 あの時はライブが終わってもすがすがしい気持ちになれなかったです。ライブが終わったあとにスタッフルームで全員で土下座をしそうなくらいのレベルでしたから(笑)。
──(笑)。ライブでそういう演出をしても殺伐とした雰囲気にはならないのは、アーバンギャルドの特色のひとつだと思います。
おおくぼ そうですね。天馬くんが提供している曲を聴いて、「これを容子さんが歌ったら、もっと違う雰囲気になるんだろうな」と思うこともよくあります。
松永 特殊な声というか。
浜崎 あんまりいない声なんだと思います。
松永 なんて言うんだろう? プレーンな感じなんだけど、歌詞をすごく聴かせてくるプレーンさなんですよね。
おおくぼ うん。言葉がすごく伝わってきます。
浜崎 それは意識して歌っているというのもあるんですけど、声質も関係しているんだと思います。「透明感がある」みたいなことを言われるんですけど、私の声は実はすごく暗い音質というか。ぱぺらぴ子ちゃんの声優をやった時に、私は一生懸命明るく話しているつもりだったのに、めちゃめちゃ冷たい感じで聞こえちゃうっていうのがわかって、びっくりしました。ディレクターさんにも、「この心がない感じがいいんですよ」と言われましたから(笑)。歌も一生懸命歌っているんですけど、一生懸命感がない声質なんだと思います。結構難しいことをやっていたとしても、難なくやっているように見られちゃうんです。「この人すごい!」と思わせることができたら、もしかしたらアーバンギャルドはもっと売れていたのかもしれない。
おおくぼ アーバンギャルドの歌のメロディは、難しいものが多いんですけどね。言葉も詰まっていますから。
浜崎 めちゃくちゃ難しいです。「すごい!」と思われない声質だから損をしているのか得をしているのかはわからないですけど、“愛、アムネシア”みたいな曲にはぴったりなんだろうなと思います。
松永 「歌が上手い、下手」というのを超えたところで、「歌詞を聴かせる力がある声」というのがあるんです。上手いけど歌詞が入ってこない歌もありますけど、あれってなんなんですかね? 歌詞を理解して歌っているということでもない気がするので。
浜崎 私は歌詞をあんまり意識して歌わないようにはしているんですよね。
おおくぼ 容子さんは普段話している時に言葉が丁寧だし、言葉をしっかり喋っているんだよ。喋り方が適当な人がいっぱいいるけど、容子さんは、文章を理解して喋っているというか、きちんとした文章で喋っていると思う。
松永 歌詞を聴かせる力がある声なので、作詞家冥利に尽きますよ。アーバンギャルドの特殊な世界観、言葉の感じを聴かせられる歌手がいてよかったです。浜崎さんが加入してくれるまで、何人も辞めていったわけですからね。
浜崎 自分はボーカリストとしてそんなにできた人間ではないと思っているんですけど、「こういうタイプの人がいてもいいよな」と最近思えるようになりました。昔はコンプレックスがあって、「この歌手、すごい!」と思われたい気持ちがあったんです。最近は評価される、されないの部分を超えたところに行けるようになりました。それはネットを見るのを遮断して、あんまりエゴサとかもしないようにしたというのもあるのかもしれないです。信頼できる人の声だけを聞こうと思っているところがあるので。「私みたいなタイプのボーカルがいてもいい世界に自分がしていこう」みたいなことなのかもしれないです。
──アーバンギャルドは、ファンの「好き」という気持ちの度合いがとても高いバンドだという印象があります。ずっと続けていくことで、邦楽史に謎の足跡を残していきたいですよね。特異点というか、神出鬼没なよくわからない感じで(松永)
浜崎 熱狂的な人は、本当にそうですからね。はまり方がすごいと思います。
松永 17年やっていますけど、人生に寄り添わせていただけている人たちも少なくないなと思います。
浜崎 でも、「懐かしいな。まだ活動してたんだ」とかいう人もいると思うんですよね。知らないところでみんな一生懸命生きているんだから、そういう言葉はあまりSNSで言わないようにしていただきたいです(笑)。
──(笑)。先日、久しぶりに“平成死亡遊戯”のMVを観たんですが、今となってはものすごい豪華キャストだと思いました。あのさんも出ていますからね。
松永 そうなんです。“少女元年”のMVの新しい学校のリーダーズもそうですけど、いろいろなコラボレーションをしてきました。
浜崎 我々は踏み台にならせていただいているという(笑)。
──(笑)。アンダーグラウンド側にいたはずの人たちが急に表舞台で支持されるようになることってありますけど、何がそういう展開に繋がるんだと思いますか?
松永 時代が自分たちに近づいてくるタイミングが、長くやっているといくつかあるんだと思います。新しい学校のリーダーズも我々と出会った頃とやっていることは変わらないんですけど、その頃は全然受け入れられていなかったんです。当時からダンスが上手くて、コンセプチュアルで、めちゃくちゃかっこよかったのに、サブカル中のサブカルみたいな存在でしたからね。
おおくぼ 変わらないままこういう状況になっているのが素晴らしいですよね。アーバンギャルドも今の自分たちのやり方のままでいたいです。それでたまたま売れてほしいとは思っています(笑)。
松永 そうですね。きっかけがほしいです。
──活動が17年目に入っているわけですが、独自の世界をこれだけ深め続けてきたというのは、本当にすごいことですよ。
浜崎 延命治療をしてきたんです。前はプライベートと仕事がごっちゃになっていたから、めっちゃ喧嘩をしていましたけど。最近は、喧嘩してないよね?
松永 レコーディングになると、喧嘩が多くなりますけどね。でも、それは創作者としてあるべき姿じゃないですか?
おおくぼ それは、そうですね。僕は喧嘩とも思っていなくて、話し合いというか調整だと思っています。
浜崎 “愛、アムネシア”のレコーディングの時、スタッフさんがエンジニアさんに「突然喧嘩が始まるかもしれないですけど、気にせずに作業を続けてください」って最初に言ったんです。
松永 「浜崎さんが、ボーカルブースでキレるかもしれないですけど、いつものことなんで大丈夫です」と。
浜崎 私、突然キレるんで。「もう歌いたくない! なんでだ? こっちの歌い方のほうがいいだろ?」って。「もう帰る!」とか、よく言うので。
松永 そんな感じでやっているアーバンギャルドですけど、20周年に向かっていくんですよね。大きい会場を早めに押さえないといけないですし、20周年に向かって着々と準備は進んでいます。
──恒例となっている「鬱フェス」は、今年も川崎クラブチッタですね。
松永 はい。ラインナップも、よりお祭り感が出てきていると思います。フェスって雑誌だと思っているんですよ。自分たちが好きで面白いと思っている人たちをどういう見せ方で届ければいいのかを編集者のように考えて反映できるのがフェスなので。
浜崎 アーバンギャルドが20周年を迎えた時は、さすがに自分のことを褒めようと思います。
おおくぼ 20周年って、結成した時に生まれた人が20歳になるっていうことですから、長いですよね。
松永 ずっと続けていくことで、邦楽史に謎の足跡を残していきたいですよね。特異点というか、神出鬼没なよくわからない感じで。
おおくぼ どちらかというと、特異点なんだろうね。
松永 うん。特異点ということだと、平沢進さんですよね。ずっとJ-POPの特異点であり続けているのに、今敏監督の作品を筆頭にアニメによってファンを増やして、今はかなり大きな特異点になっているんです。東京ガーデンシアターでライブをやっていたりしますから、あれを目指しましょう。
浜崎 憧れです。人間椅子さんもそうだよね? 海外人気もすごくて、今がいちばん熱いから。
おおくぼ 人間椅子も希望の星のひとつですね。
松永 アーバンギャルドも大器晩成を目指しましょう、浜崎さん。
浜崎 はい。そのためにも、今日はこのあと、寝させていただきます(笑)。
松永 僕たち、希望に満ち溢れているじゃないですか?
浜崎 そうかもしれないね。「バンドを長く続けることによっていいことがあるんだよ」的なロールモデルになれたらいいですよね。