【インタビュー】BRAHMANはなぜ結成30周年、7年ぶりのアルバムで自分たちのパンク/ハードコアの核を青くまっすぐ鳴らしたのか? TOSHI-LOWが語る

【インタビュー】BRAHMANはなぜ結成30周年、7年ぶりのアルバムで自分たちのパンク/ハードコアの核を青くまっすぐ鳴らしたのか? TOSHI-LOWが語る

天気と一緒じゃん。雪降る日も雨降る日も晴れの日もずっと続くわけでもない。どんな状況でも自分が進むっていうものに関しては、生きてる限り変わらないんだから

──1曲目に入れた“順風満帆”は歌詞も含めて、今の年齢じゃないと書けない内容という感じがします。

そうね。

──ちょっとシニカルな角度なんだけど、それが刺さる形で表現されている。希望と絶望が絶妙にミックスされた感じが“順風満帆”というタイトルにも出てますよね。

シニカルなんだけど、結局は本質だからね。天気と一緒じゃん。雪降る日も雨降る日もあるけど、それもずっと続くわけじゃないけど、晴れの日が続くわけでもない。そんなことに文句言ったって仕方ねえんだから。どんな状況でも自分が進むっていうものに関しては、生きてる限り変わらないんだから。確かに経験があっての歌詞だろうとは思うし。20代で歌ってたら本質だとしても、すごいシニカルだった気がする。なんかもう、何が起きても笑うしかねえじゃんって。どんだけうまくいかなくてもさ。実際そういうふうにやってきたつもりだし。「よっしゃ、面白いことになったな」って言い聞かせてやってきたから。自分の描いた通りにはいかないからさ。誰もがこんな国になるなんて予期できないしさ。フジテレビのあんなことを見てもびっくりするじゃん。自分が現実味を帯びて書いているから当たり前なんだけど、やっぱりすべてにおいて今っていうものがめちゃ強い気がする。

──そうですね。“順風満帆”にすごく今を感じたし、この曲からアルバムが始まるから“恒星天”“春を待つ人”への明るい流れもすんなり入ってきました。

ほんと? やった。


──ラストの“WASTE”は英語詞で、細美(武士)さんが参加している曲です。前作にも英語詞は1曲入っていましたけど。改めて英語詞でのBRAHMANの新曲として聴いてみたら、昔に近い部分もあったし、全然違う部分もありましたよね。

なんかメロディと歌いたい意図とか意味が全部決まって。コーラスしてほしいなって人も浮かんで。歌詞を書き出してたんだけどハッと思って。コーラスしてもらうなら歌詞を一緒に作ってもらうところからやろうと。だから初めての共作で。

──へえ!

英詞も、どっちかっていったら細美武士が持っているエッセンスをすごい入れてもらって。書いてほしいことは伝えてたんだけど、歌詞が来たら全部バーッて嵌って。自分で作った詞だから本人もコーラスしやすいじゃない? これはレコーディングもいちばん最後だったんだけど全部ばっちり嵌ったっていうか。

──細美さんとは今までも一緒にいろいろやってますけど、こうやって歌詞作りを一緒にやりたいと思ったのは?

さっきの茂木もだけど、圧倒的な世代感とか信頼感があって。「え!? 同級生なの?」だけで仲良くなるってあるじゃん。それに近いものがあるし。あと震災以降において圧倒的に他と違う付き合いだし。あとエルレが新しくアルバム作ったじゃん。それも実は全部見ていて。ロスにひとりで行く前も酒飲んだり、帰ってきたらまた飲んだり。で、一個のアルバムを作るのに、こんなに苦労してるんだっていうのを見せてもらって。自分だったらこんなに努力できんのかなとか。それを見せてもらったことが勇気になって俺も、今までデモテープとか作ったことなかったけど、ひとりで覚えようかなってパソコンを覚えたり、ひとりで打ち込んだり。俺らとは状況が違うじゃない? 休止があって復活して。復活したらどんなアルバムでも出せば喜んでくれるっていう状態でも「絶対ダサいアルバム作りたくない」「昔をなぞったものもやりたくない」っていう姿を見ていたから。そこにすごい影響されてると思う。

──その姿を見て、もっと創作を深いところで一緒にやったうえで一緒に歌いたいってなるところも10代っぽいというか、青い感じがします。

そうかもね。素直かもね。大人の利益は関係ないからさ。単純にすごい人だなあって横で見ていて思ったもんね。

【インタビュー】BRAHMANはなぜ結成30周年、7年ぶりのアルバムで自分たちのパンク/ハードコアの核を青くまっすぐ鳴らしたのか? TOSHI-LOWが語る

実感としての終わりは明らかに近いわけであって。やれるっていうこと自体に対して、始めた頃には考えなかったぐらい感謝も愛情もある。それは関わる人たちに対してもある

──『viraha』(ヒンディー語で「愛する人と離れることで、いかに相手を愛していたかに気づくこと」という意味)は、アルバムができてから最終的についたタイトルですか?

そう。

──この作品にこの言葉がついた理由は?

理由をタイトルにしているっていうことなんだと思うんだけど。やっぱり、歌詞を書いていく中で、自分のことも思うし、社会に対する怒りもあるし。ただ、いろんな人が頭ん中ですれ違って通り過ぎていく。今回はそういう視点がすごい多かった。そういう時期なのか、心がそういうものに触れる年齢なのかわかんないんだけど。愛おしさとも違うんだけど、慈しむみたいな部分がデカくて。それをぶった切ってく強さに持ってくことも可能だったんだけど、さっき言ったように、そういうのって理由なんてどうでもいいじゃん。だったら悲しいでいいじゃんみたいな気持ちがデカかったから無理やり外そうとも思わなかった。それが今の自分の気持ちだったら、それを素直に出す青さってこと。だからこれを作っているときの理由とか本質がこれだった。

──それを全部内包した単語ってなかなか出会えないですよね。

そうなのよ。だから、どうしようかと思って。「郷愁」とか近いけど違うじゃん。ひと言で表したかったんだけど漢字二文字とかにしたくなくって。英語で「失われたなんとかを愛する」とか説明をしたいわけではなくって。ひと言ポンって置きたかったんだよね。

──最初、TOSHI-LOWさんが喉の手術の話をしたときに「ああ、これも『viraha』だったな」って思いました。失って気づくものという。

ああ、そうね。「そういうもんなんだな、人間は」って思うし。すげえ言語辞典いっぱい買ったんだけど、高ぇんだ(笑)。金かけたよ。2万、3万するんだよ。ネットとかに出てないことなんか、世の中にいくらでもあるじゃん。俺、辞書を信用してて。

──わかります。ネットってなんでもわかるようで結構、底が見えますよね。

そう、浅いの。ほんとに調べなきゃいけないものって図書館とか辞書にあって、まだちゃんと見ていない言語がある。アイルランドのゲール語とか。そういうのをピンとくるところから集めてめくり出すっていう学生みたいなことしててさ。

──その作業、昔からTOSHI-LOWさん、好きですよね。

言葉好きなんだよ。必ず出会うからね。モヤモヤした中途半端なところを表す何かに出会うんだよね。ページめくりの感覚を俺は信用している。

──このアルバムを聴くと、年齢的な限界は感じない、むしろ武器になってこういう作品ができたっていう感じがするんですけどライブにおいてはどうですか?

やっていかないとわかんない。やれるはずだとは思っているんだけど。わざわざ負けに行くつもりもねえし。年取ったからって姑息な戦い方とかしたくないじゃん。正面から行ってそれでぶっ倒れれば本望だし。かといって、ぶっ倒れに行くわけではない。あくまでも、いい戦いをするためにやっているから。勝ち負け以前に大事なものがあるっていうことには重々気づいているから。だけど、やっぱり何かをするなら自分なりの勝ちにはこだわりたいし。負けるなら負け方にもこだわりたい。とっくにだけど終わりを見ながらやっているわけだから。それは、『A FORLORN HOPE』の頃に考えていた終わりとは違っちゃっているし。もっとギタギタになって終わると思っていたら、こうやってうすーく削れながらやるんだなあって、想像もつかなかったし(笑)。

──延命しているわけではなく、作品をつくるたびに、別の終わりが創造されて、それが更新され続けて、未知の終わりに向かっている感じですよね。

ただもう、実感としての終わりは明らかに近いわけであって。そうなってくると、やれるっていうこと自体に対して、始めた頃には考えなかったぐらい感謝も愛情もある。それは関わる人たちに対してもある。

──このアルバムはメロディアスだし、肯定的だし、でもパンク/ハードコアじゃないとできないことをやっているし、ライブに行きたくなるものになってる。すべてがいい方向に行っている感じがしますね。

それがバンドの状態を表せているんだったら、それはすごい素敵なことだと思うし。まず4人でいることとかが嫌じゃないから……辟易すんじゃん、30年とか。夫婦とかでもきっと。

──そこは人間性ですよね。BRAHMANのバンドとしての人間性の良さが音に全部出ている。

人間性が嫌な奴とやりたくねえもん。いくら楽器上手くても。そういう人たちっていなくなっちゃうからね、やっぱ。

──30年続かないでしょうね。

だから途中休んで30年とか、ずりい!(笑)。俺たちだって休みたかったよ。やめどきを失った感じがするもん。いいなあ、一回休むと復活したときチヤホヤしてもらえて(笑)。

──でもBRAHMANにその必要はなかった。

そうかな。まあ、ずっとやれてよかったって思ってる。

──最高ですよ、バンドとして。

ってことはいつだって“順風満帆”じゃん、って(笑)。

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