──“沼超えて湖”を聴いた時に、ようやく“もういいの?”とかを超える曲がLASTに生まれた気がしたんだよね。キャッチーさとか王道感で言えばそこに並び立つような曲だけど、今言ってくれたようなピュアさや無邪気さがプラスされていて、それが伸びしろになっている感じがした。曲を作る時、五度圏を書いて、「ダイアトニックコードはこうで、裏コードはこう」ってやってるんです
バランスを考えながら、でも自由であることは忘れちゃいけないんだなって思い始めているんですよね。僕、曲を作る時、「歌詞はこういう感じで」「じゃあこういうコード構成で」「こういうキーで」っていうのを紙に書き出すんですよ。五度圏(1オクターブ12音を円形に並べた図)を書いて、「ダイアトニックコードはこうで、裏コードはこう」ってやってるんです。
──はははは! そんなバンドマン、いねえよ(笑)。
友達にも、「そんなことしたことないし、五度圏って何?」って言われるんですけど(笑)、自分で把握したいんですよね。そういうことをやり続けてきた結果が今までだし、それも必要な時間だったと思うんです。ただ、そこから少し離れて、「これにいいメロ乗ればいいっしょ」みたいな気持ちも大事だなと思うようになりました。
──そういう感覚の変化ももしかしたら影響しているのかもしれないけど、“沼超えて湖”はサウンド的にもすごく活き活きしてるというか、バンド感を強く感じる音になりましたね。
元々、バンドサウンドを大事にしたいなとは思ってました。ポップスのほうが似合うようなメロディを、いかにロックに持っていけるか、ストレートにできるかを大事にしていて。あと、ロックバンドとして僕が圧倒的なフロントマンであることも大事だけど、てる(鹿又輝直/Dr)もめちゃくちゃいいドラマーだよねっていうのをもっと知ってほしいって思ってるし、ドラマーとしてもっとてるを強くしたいっていう思いがあったので、今回ドラムに力を入れたんですよね。こういう曲でこういうサビだと、ドラムが強すぎるとパンクバンドみたいに聞こえちゃうから、それは違うなって。それをてるもすごく理解してくれたので、自分の心を広げて俺を受け止めてくれたんだなと思いますね。あと、てるはドラムで歌いがちなんですよね。それが今の課題だと思っていて。
──「歌う」っていうのは?
たとえばバラードの曲で歌うのは俺だけでいいはずだし、(サポートベースの芳井雅人を含めた)3人で作るグルーヴにおいて、感情のひとつの正解を示すのは僕だけでいいと思ってて。3人ともその認識は同じなんですけど、やってると自分の演奏にどんどん入り込んじゃって、てるもドラムで歌ってくる──微妙に後ろにしたり溜めたりする瞬間があるんです。それもいいとは思うんですけど、俺の感情をもっとストレートに届けたいと思った時──5年後、10年後にはそれだと難しくなってくるかなと思っていて、てるにも話してます。This is LASTというバンドがどういうバンドかを考えたら、やっぱり俺の声と歌が土台としてあるわけだから、それを支えられるものを作らなきゃいけないわけで。
──ロックバンドって感情に任せてドカーン、ワーッて音を鳴らすものだと思われているけど、「でも今ロックバンドやるってそういうことだけじゃないよね」っていう感覚がたぶんあきくんの中にあるんだろうなと思った。自分の中に情緒があるのは、大前提なんですよ。その先をどこまで考えられるかが、ロックバンドのアイデンティティになってくる
自分の中に情緒があるのは、大前提なんですよ。それがないとロックバンドにはなれないから。でもその先をどこまで考えられるかが、ロックバンドのアイデンティティになってくるんじゃないかなって考えてますね。
──この曲もすごくポップだし、バンドだねって思うけど、実はめちゃくちゃ緻密に作られているからね。歌もそうだと思うんですよ。歌い出しの《あのね》っていう言葉、これをどう歌うかで曲が決まるじゃないですか。
《あのね》の情緒によって、一瞬でこの曲がどういう曲かがわかるんですよね。「こういう歌になっていくな」っていう想像ができる。だから、今回のレコーディングでも、「この曲でパワー感があるのは声だよね」っていうかたちにしたくて、いろいろ悩みました。言い方を選ばなきゃいけないですけど──最近の流行っている曲の中には楽曲のパワー感とボーカルの声量が明らかに合ってない曲があるじゃないですか。ミックスで聴きやすくしてる、みたいな。そういう曲って、最初音源で聴いた時はすごいなって思うけど、ライブを観に行ったら「やっぱりそうだよね」って思ってしまうということが起きる。それも時代なんだなとは思うんですけど、ライブで120%に持っていくことを念頭に置いていつもやるべきだなとは思うようになりましたね。
──そこが菊池陽報の苦悩の根源だと思っていて。要は自分の歌さえ立たせればいいんだったら、やりようはいくらでもあると思うんです。
それ(ミックスで聴きやすくする)でいいかって思う時もあったんですけど、でもやっぱりそれはダサいなって思っちゃって。最初にバンドに対して憧れを持った、かっこいいと思ったあの瞬間の気持ちをそういうので消しちゃいけないよなって思ってます。
──この“沼超えて湖”の歌はめちゃくちゃよくて、サビの終わりの《会いたい》っていうフレーズのニュアンスもこれしかないなって思います。
ここは大変でしたね。サビの後半の締めはあとから作ったんですよ。最初は《沼超えて湖》で終わってたんですけど、それだとサビが15秒しかなくて短すぎるから(笑)、どうやって終わらせたら納得させられるかなと思って。ドラマの内容を考慮したうえで、ひと言で、しかもこの短さで何を言えるかを考えて、ここに行き着きましたね。
──これで終われたっていうのが、素晴らしいです。
ありがとうございます。本当に死ぬかと思った(笑)。ずっとこの部分が空いていたんで、ヤバいなって。でも、自分の中ではすごく楽しかった曲なんですよね。苦しかったけど、自分の中では新しい発見もいろいろあったからいいなと思ってます。
ヘア&メイク=舟﨑彩乃
スタイリング=豊川みき
このインタビューの完全版は、発売中の『ROCKIN'ON JAPAN』8月号に掲載!
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