──もうひとつ触れておきたいトピックがあります。同じくVTuberでありシンガーである渡会雲雀さんとふたりで“劣等上等 feat. 鏡音リン・レン”(Giga)をカバーしていましたが、この曲が、これまでにないほどエモーショナルな歌唱を引き出していましたよね。渡会雲雀さんが(鏡音)リン・レン曲を提案してくれたことがすごく嬉しくて、気合い入りまくりで制作した結果、めちゃくちゃ時間がかかりました(笑)
『緑仙の音楽ダイアログ』という形で、音楽対談を定期的に配信しているんですけど、そこでゲストとして渡会さんをお招きしたんですね。この収録のタイミングで「にじさんじ」全体で回るライブツアーをやっていて、その名古屋公演で初めて一緒に歌う場面があったんです。「もっとこうできたよね」とか、「練習の時間がもっとあればなあ」みたいな部分もあったりしたけれど、すごく楽しかったから「次何する?」みたいな話になって。そのときに “劣等上等”に関して彼のほうから提案してくれました。鏡音リン・レン(バーチャルシンガー)曲って、結構人を誘うのが難しいんですよ。僕は結構レン(男声)で呼ばれることが多くて、今回はリン(女声)だったので、「いいんですか自分で?」って。渡会さんがリン・レン曲を提案してくれたことがすごく嬉しくて、気合い入りまくりで制作した結果、めちゃくちゃ時間がかかりました(笑)。この話が本格化したのが今年の初めくらいだったので、やっとですね。やっと出せました。
──ふたりのボーカルの新たな境地が切り拓かれたカバーだと思います。ハイトーンもそうだし、ラップパートも。
クリエイターさんとやりとりをするときのことを、僕は「音楽文通」と呼んでいるんですけど、相手がいいものを出したら、こっちもそれに応えるようなものを出して。そうするとまた向こうも「ここまでやってくれるんなら自分ももっと」ってなる。それを聴けばこちらもまた「そこまでやるなら自分ももっと!」って、誰に頼まれてもいない部分がどんどん付け足されていく。渡会さんが「ここ、全体で聴いたら声が低いんでハイトーンでいきますわ」って言い出したら、「だったらこっちのインパクトが弱くなるから、ここでがなります」となって、「そうなるとここも欲しくないですか?」っていうのでコーラスが増えて。そうやって「また増えた、また増えた」って、エンジニアさんを困らせたと思います(笑)。快く「はーい」ってやってくれたのがありがたかったですね。
──そんなふうに、緑仙さんの音楽衝動がいろんな方向で高まっているのを感じるこの頃ですが、昨年に続いて今年もCOUNTDOWN JAPANへの出演が決定しました。去年は初出演にして初日のトップバッター。緊張感もあったと思いますが、どうでしたか?音楽ってすごいから、次元が違っていても自分の感情を伝えてくれる。だから「新しいことをしている」とか「切り拓いていくぞ」みたいな感覚はそこまでないんですよ
逆にまったく緊張はしていなくて。怖いもの知らずだったんですね。その前にツアーをやっていたこともあって、ツアーファイナルのようなテンション感でした。バンドメンバーはいつメンだし、その人たちと「なんかCDJも出れるらしい、いえーい!」っていう。このときの気持ちの高まり方は、僕が初回配信をしたときの感覚に近かったです。2018年に初めてVTuberとして配信をしたんですけど、まだ今ほど「にじさんじ」も盛り上がっていなくて。今は街を歩けば駅の広告とか電車の映像とか、いろんなところでVTuberを見かける時代になりましたけど、当時はまだ一部の二次元コンテンツ好きな人にしか注目されてなかったと思います。だからこそ未知の領域で、どうなるかわからないというワクワクが強くて。ドキドキするというより、逆にいつもより多弁で元気になっちゃうみたいな、変な高まり方が、自分の中ではすごくよかったんですよね。そのときの感覚に近かったです。
──CDJのステージには緑仙さんのファンもたくさん駆けつけたと思うんですが、VTuberがステージに立つということに興味を持って足を運んだ人もいっぱいいたと思うんですよね。結果として、そういう人たちも巻き込んで、しっかり盛り上がるライブになっていました。
朝イチだし、最初は「お客さん、入るんかな」っていうところから、どんどん人が増えてきて。そしたらさらに余裕が出てきてMCで「待ち合わせで暇な人は来てください」みたいなことまで言っちゃうみたいな。ほんとにVTuberって実在するのか、どうやってライブやるのかって、お客さんには思われていたと思うんですけど、なんか普通に楽しいじゃんって思ってもらえたらいいな、一緒に音楽を楽しんでもらえたら嬉しいなって思いながら歌っていました。
──VTuberだとかバンドだとかの属性を超え、さらに次元も超えたライブを見せるという、新しい文化をフェスに持ち込むような気概もありましたか?
いや、そもそも自分が「異質なものである」、「他とは違った文化である」という意識を持っていないからこそ、フェスに出たいだの、ライブをもっとやりたいだの、好きなことを言ってしまうんですよね。それを実現するためには、いろいろ大変なことがあるというのはわかっていながらも。
──感覚的に、そこに文化的な線引きはないと。
もちろん生身の人が立つステージのほうが伝わるものはたくさんあると思うんです。細かな表情の変化とか汗をかく姿だとか、そういうところで熱を伝えられることもあるので。でもVTuberのライブは次元を超えるだけでも大変だということを頭では理解しているけれど、それでもやっぱり音楽ってすごいから、次元が違っていても自分の感情を伝えてくれる。そう信じてここまで来ているんですよね。だから意外と「新しいことをしている」とか「切り拓いていくぞ」みたいな感覚はそこまでないんですよ。ただひとつ思うことは、自分が頑張ることによって、VTuberというジャンルの人たちがもっと音楽イベントに出やすくなったり、音楽でデビューできたりするようになるんじゃないかということ。フェスもそうなんですけど、そういうのがちょっとずつ可能性として広がっていったらいいなと思います。「あ、緑仙がやってるならいけるじゃん」って、業界全体としての前例でありたいなというのはありますね。
──そして今年、2度目、2年連続のCDJ出演。今はどんなステージにしようと考えていますか?
今年のほうが緊張してます(笑)。出たらどうなるかというのがもうわかっているので、今までにないタイプの緊張をしています。もちろん楽しみなんですけど。前回出たときに驚いたのは、ワンマンライブとフェスとでこんなにもお客さんの雰囲気が違うということ。僕のライブに来る人の多くは、それほどライブやフェスに慣れているわけじゃないと思うんですよね。VTuberを好む人は、家でゆっくりインターネットを楽しみたい人が多いと思うので。なので、ライブでもそれほど積極的にハンドクラップが起こったりはしないんですよ。音源にわかりやすくクラップが入っているところでは起こるけど、基本的にはみなさん、サイリウムを手にライブを楽しんでくださっているので。それが去年のCDJで“猫の手を貸すよ”っていう曲を披露したとき、大きなクラップが起こって、前方にいたいつもライブに来てくれているファンの人たちが驚いてました。「ここって手拍子すんの?」みたいな。僕も、「え、手拍子してくれるの?」って。そんなふうにしてくれるんだったら次回もこの曲入れちゃおっかなとか、今回はまたセトリの組み方が変わりそうです。
──初見で曲を聴いて盛り上がれるというのはフェスの理想的な形ですよね。
あれは感動しました。「フェスの客すげえ」って。どこ目線だって話ですけど(笑)。すごく嬉しかったです。普段から観てくれているリスナーさんと一緒に、たくさん成長させてもらえたフェスだったので、今回はさらに成長できるように、いろいろ吸収したいなと思います。
──今年初めて緑仙さんのライブに触れる人もいると思います。そういう人に向けてもひと言お願いします。
VTuberのライブというものが浸透してきている昨今ですが、まだ実際どういうものかわからないという人も多いと思うし、自分もまだわかっていないです。でもアイドルが好きで来ている人、激しい音にめちゃめちゃ頭振る人、ほんとに棒立ちの人……いろんなタイプの人がいる中で、どんな盛り上がり方でもいいから、音楽を通じて騒げばみんな仲間だっていう感覚はずっとあって。初めて観る人は「これがVTuberのライブか!」と驚くかもしれないですけど、自分はシンプルに歌で、来てくれた人の心を惹きつけたいと思っているので、ぜひ一度、聴きにきてください。
──今年もさらに期待しています。
ありがとうございます。頑張ります!