インタビュー=古河晋 撮影=Takako Noel
──メジャーデビューミニアルバム『bouquet』、すごくいいアルバムです。しかも、おいしくるのメジャーデビューってこういうことなんだっていう新鮮な衝撃を感じたんですが、まずはそれぞれ作品の手応えを聞かせてください。今回は特に音楽そのものをストレートにやってるなという感じがあります(峯岸)
ナカシマ(Vo・G) 本当に何にも縛られず──それはメジャーというものにもだし、今まで積み重ねてきたおいしくるメロンパンっていうものにも縛られずに、フラットにつくりたいものがつくれた感覚ですね。等身大の作品ができたなと思ってます。今のおいしくるメロンパンをそのままお届けできた作品になってよかったなと。今の実力だったり立ち位置だったりを、そのまま表現できたなっていうか。奇跡が起きたわけでもないけど、ちゃんと今までやってきたものがしっかり出たと思います。
峯岸翔雪(B) 曲つくってる時に1曲1曲がいいなって思ってたんですけど、5曲揃って並べてみて、めちゃくちゃ収まりがいいというか。しっくり来る感がすごくて、ここに来て初期に近い印象を受けるというか。それがそこはかとなく自分としては嬉しい気持ちがありますね。10枚目でこういうのができたのがめちゃくちゃ嬉しいです。前作は特に、おいしくるメロンパンがここまで積み上げてきたものを集めたような濃い作品になったので、俺の中では期せずしてこういう作品になった気がして、すごく嬉しいですね。あとは、音楽やってるなって感じですかね。音楽以外のいろんな要素を込めるというのもおいしくるメロンパンの良さですけど、今回は特に音楽そのものをストレートにやってる印象を自分は受けます。自分もベースアレンジしてて、めっちゃ音楽やってるなあって思いながらアレンジしてました。
原駿太郎 (Dr) メジャーデビュー盤ですけど、僕個人としてはつくってる時は特別なことするぞとかはなくて。でもできあがった5曲を聴いて、これで初めて聴く人もたくさんいると思うんですけど、そういう人たちに向けたものとしてもすごくバランスがいいなと。いろんな方向性の曲がしっかりあって、なおかつ今までの僕らの雰囲気もしっかり出せてる。メジャーデビュー盤としてすごくいいものになったなと思います。
──なんか今回の作品は、ナカシマくんひとりの頭の中に、計画はあんまりないのかなって正直思って。
ナカシマ うんうん、そうですね。
──それよりも今こういう音を鳴らしている3人の感覚を聞きたいというか。この感じ、なんなんでしょうね。
ナカシマ なんですかね。でも、ずっと背負ってたものが重くなり続けてきたところがあって。それを一度下ろせたのが野音のタイミングで。ちゃんと表現し尽くして、その肩の軽さみたいなものはあるかなと思いますね。
──これだけ大きな区切りがついて、新しいスタートを切ったら、こういう大きな変化がバンドの中に起きるというのは想像してた?
ナカシマ そうですね、思ってはいたんですかね。『antique』をつくった時に表現したかったもの、世界観の上限の幅まで到達した感覚はあったんで、次どうしようかなという感覚がずっとあって。どうにでもできるからこそどうしようかなっていろいろ考えていた中で、ここに行き着いたというか。ほんとつくりたいようにつくっちゃおうって感じでした。
──では、それを踏まえて1曲ずつ聞いてこうと思うんですけど。この中で古いのはやっぱり“未完成に瞬いて”になる?“群青逃避行”は、これまでやってきたの武器や自分が抱いてる世界観の10年分を分解して再構築したらどうなるかなって感覚でやった(ナカシマ)
ナカシマ ですね。いちばん最初にできたのはそうです。
──これはアニメ『フードコートで、また明日。』のタイアップですけど、こうやってミニアルバムの中で聴いてみるとやっぱり『bouquet』のモードがめちゃくちゃ入ってますよね。“未完成に瞬いて”の時点で今までと違う感覚はあったんですか?
峯岸 僕はシンプルに最高じゃん!って思ってました。ナカシマは、タイアップっていうことで、つくり方は結構工夫してくれただろうなとは思うんですけど、リスナーとしての第一印象でめっちゃ最高な曲上がってきたなって思った記憶はあります。
──僕の印象はタイアップとしての工夫と気合も感じつつ、それ以上にグルーヴがやっぱめちゃくちゃ元気っていうか、若々しくなったなこのバンド、という感じがあって(笑)。
ナカシマ あ~。
──曲が呼んだものだとは思いつつも、この新鮮なグルーヴが今出てきたのはなんでかなって。
ナカシマ それも肩の荷が下りた感から来てるものもあるんじゃないかなっていうのは、僕は感じますけど。こんなシンプルでポップな感じをやるのは結構久しぶりだったような感じもするし。こういうのもやりたかったよねっていう楽しさはサウンドに表れてるかなって。
峯岸 一旦『antique』が終わったあとのモードとしての指針になる1曲にはなったのかなとは確かに感じますね。こういう曲をやってもいいタームに入ったというか。
原 僕はあんまりそう感じてはいないかもしれないですね。確かにタイアップっていうこともあって、その雰囲気は出てはいるんですけど。今までもこういう曲もあったよなっていう感覚はあって。
──いや、その原くんの見方も全然あっていいと思ってて。それが“未完成に瞬いて”の絶妙のバランスだと思います。なんせ曲の締めくくりは《モラトリアム延々空転中》という。こういうポップなタイアップソングなんだけど、モラトリアム延々空転中してるのがおいしくるメロンパンらしいですよね。この歌詞はなんで入れたんですか?
ナカシマ これはほんとアニメの世界観に寄り添ってる感じではありますね。アニメだとこのフレーズから始まるんですけど、原曲だと最後に据えてて。もともとアニメサイズで頭にくっつけて最初にこのフレーズを聞かせたいなと思って歌詞を書いたんです。
──じゃあ、いちばん大事なフレーズなんだ。
ナカシマ そうですね。アニメを観てる人がこの歌詞をまず聴いて、この曲の持ってる雰囲気とか世界観に入っていくので、そこにこの言葉があったらすごく掴みどころになるかなと思って書いた歌詞ですね。
──続いては、やっぱり“群青逃避行”について聞きたいんですが。これはバンドの新しいグルーヴが、“未完成に瞬いて”よりも明確に出てる感じが僕はするんですけど。
峯岸 バンドアンサンブルは新しいかなとは思いますね。ベースのアプローチも、自分の姿勢は変わってないですけどアプローチの仕方は違って。具体的なことを言うと、最初はサビで、疾走感あるベースのフレーズで行こうかなってつくったんですけど。ナカシマに「この曲は1曲を通してエキゾチックなリズムの感じを押していきたいから、そっちの方向で行こう」って言ってもらって、それは新しいなと思いました。たぶんドラムも、各楽器結構そうですね。そういう意味でも確かに新しいと思ってます。
──こういうロックっぽい曲だから、疾走感をサビで出して行くっていうのとは違ったんだ。
ナカシマ そうですね。もちろん疾走感も欲しい曲ではあるんですけど、それよりももっと複雑な感情のほうを表現することを優先したい曲だったかなって思いますね。おいしくるメロンパンしかやらないアレンジだなって今聴いても思うし。あんまり普通の邦ロックではないベースの動きをサビまでするところにらしさが出たし、結構気に入ってますね。
──“未完成〜”の感じは今までもあったじゃんという派だった原くんは、“群青逃避行”に関してはどう?
原 これは今までのおいしくるメロンパンの要素をそれぞれレベルアップさせたみたいな、同じ要素だけど新しいことをしてるみたいのがあって。今までの雰囲気もありつつ新しさもありつつ、みたいな感じの曲になったなと思いますね。
──だから“群青逃避行”って、10年目のメジャーデビューだから、いかにもデビュー曲じゃなくてもよかったと思うんだけど。めちゃくちゃ明確にデビュー曲ですよね。
ナカシマ そうですね。これでメジャー行きますっていう曲は、自分の中で、これぞおいしくるメロンパンというもので行きたかったので。だからこれまでやってきたことのおいしくるメロンパンが持ってる武器だったりとか、自分が抱いてる世界観みたいなものの10年分を、1回分解して再構築したらどうなるかなっていう感覚でやりました。
──『antique』は、まさに集大成だったんだけど、“群青逃避行”はそれを全部込めつつ、一旦分解してストレートなロックとして再構築するという難しいことを達成してる曲ですよね。
ナカシマ そうですね。これはほんとめちゃめちゃ悩みながらつくりました。楽しさもありつつしんどかったですね。でも、そのハードルをちゃんと越えられたなっていう感覚はあります。
──これってやっぱりメンバーへの信頼感がすごく必要な曲だった気がします。今のおいしくるメロンパンだから、これを的確に表現できるっていう信頼があったんじゃないかな。
ナカシマ そうですね。それはあると思います。
──だからこの曲でおいしくるメロンパンのメジャーデビュー作戦の成功が見えましたよね。
ナカシマ そうですね。それで言うとほんと、このアルバムにおいて、この曲だけはそういうこうしなきゃいけないハードルが自分の中にあって。他の曲はそんなになかったですけど。
──だいぶ自由だよ、他の曲は。
ナカシマ そうですよね(笑)。そういう感覚はあります。この“群青逃避行”と“未完成に瞬いて”の2曲がしっかりと土台としてあることによって、こういうふうにメジャーデビューをして、ここから進んでいきますっていう、僕たちの考え方がしっかりと聴く人に伝わってくれるかなというのがありました。
──じゃあその手応え、自信、自由な感覚を踏まえて残りの3曲を順番に聞こうと思います。全部ばらばらなんだけど、まず“誰もが密室にて息をする”。これは結構びっくりしました。おいしくるメロンパンからこんなグルーヴが出てくるんだという。これはどうやってつくった曲なの?『antique』までが空想的で美しい、汚れを排除したようなつくりだったので、その真逆をクローズアップできたら面白いと思った(ナカシマ
ナカシマ これはギターのリフが先にできて、そっからこういう世界観というか景色だろうなって自分の中で想像を膨らませていってっていう感じですかね。『antique』までが、わりと空想的なものというか、美しい、汚れを排除したようなつくりだったものに対して、その真逆にクローズアップするっていうことができたら面白いなとは思ってましたね。現実に帰ってきた感覚というか。
──たとえば“獣”みたいなオルタナティブの極致みたいな曲もつくりたいって言ってたよね。それが思った以上の振り切り方できた感じがした。
ナカシマ そうですね。今できる振り幅の最大値って感じはありますね。
──このデモが来た時、メンバーとしてはどんな感じだった?
原 すごいめっちゃ攻撃的な、こんなタイプの曲もあるんだみたいな驚きもありつつ、同時にサビとか結構、ポップさもしっかりあるなと思って。人を掴むメロディだなと思って、めっちゃかっこいいなって思いました。
峯岸 かっけーなーって感じですね。この曲が持ってるまがまがしい雰囲気みたいなのは、今までの曲でも端々には出てきてはいたと思うんですけど、それを集めて煮凝らせてみたいな曲なので。結構おいしくるメロンパンのまがまがしくて猛々しくて激しくてみたいなところのエッセンスがすごく好きなので、マジで嬉しかったですね。「ああ、やりたかった、俺も」みたいな感じで。
──で、曲調的には対極とも言えるのが“十七回忌”。これは非常にシンプルなようで、すごく新しいって感じがしました。これはどんなふうに生まれた曲?
ナカシマ やっぱりギターのサウンド、コード進行からつくったんですけど。つくってたのも冬で、思いっきり冬な曲をつくりたい感覚でした。
──これは『antique』までの時期のきれいな世界観に近いようで、最終的に向かってるところがちょっと違うみたいな感じがしました。
ナカシマ そうですね。より現実だなっていう感じがします。今回のミニアルバムは一貫してそうですけど、この曲は特に現実に帰ってきた等身大な感じがあって、ほんとひとりの目線からしか語ってない世界っていう。
──それを内省的な感じでやっているんではなく、今、ここに生きているみたいな感覚だよね。
ナカシマ そうですね。
──それがなんで“十七回忌”というテーマになっていったの?
ナカシマ 十七回忌って、さすがになんも思わないじゃないですか。ほぼ他人事みたいになっちゃってるぐらいに感情は萎えているんだけど忘れてないっていう感じがこのタイトルはすごく表現できてるかなと思う。それでもちゃんと会いにきているという距離感なのかなっていう感じですかね。
──喪失の生々しい傷みたいなのはもうないんだけど、忘れてないし、根底には悲しみがちゃんとあるという。
ナカシマ うんうん。
人の関係って勝手にどんどん溶けていってしまうクリームソーダみたいに待ってはくれないこともある(ナカシマ)
──そして“クリームソーダ”。これもめちゃくちゃいい曲なんだけど、いちばん自由につくった感じがする、ナカシマくんが。肩の力が抜けたっていうのをいちばん象徴してる曲という感じがする。自分としてはなんでこういう曲がつくれたと思いますか?
ナカシマ なんでですかねえ。さっきも言った通りなんですけど、“未完成〜”と“群青〜”があったから、もう伝えたいところというか方針だったりっていうのはしっかりと伝わることが担保された状態だったんで、この歌詞はかなりゆるく書いてもいいんじゃないかというか。ゆるさもおいしくるメロンパンのひとつの特徴でもあると思ってるんで。それをこの曲では表現しても大丈夫なんじゃないかなって感じがしたので、なんか活動初期の頃の感覚で歌詞を書いたっていうのはありました。結構、こぢんまりとした世界観にしたいなっていうか。ふたりの関係性と、ほんとテーブルの上にあるものだけでそれをひもづけていくようなつくり方でした。『antique』までがどんどん視点が上がっていってスケールの大きいものを書いていく方向に進んでいった中で、1回それをやめるというか、その流れが終わって。もう1回ひとりの目線からやってみようっていうのは、この作品をつくる中でずっと思ってました。“クリームソーダ”もそういう感覚で。敢えて目線を下げてるというか。
──今、話を聞いてて初めて気づいたけど“色水”に近いよね。テーマ的にもちょっと似てるし、メッセージでもなく、大きなストーリーでもなく、ミニマルなふたりだけの世界のストーリーだけで書いてくという。
ナカシマ そうですね。
──ちょっと短編小説っぽい書き方。
ナカシマ あ、そうですね。すごいそういう感覚あります。
──この《最後の1行を/読まずに閉じるような/借物の永遠が/溶け出して止まない》というクリームソーダと本を巡るストーリーみたいな。これはどうやって思いついたんですか。
ナカシマ 人の関係って自分で終わらせることができるものと、勝手に終わっていってしまうものがあって。自分は最後の1行を読まないことでずっと、その関係を曖昧な状態で終わらせずに保っている。でも相手が必ずしもそれを望んでるとは限らないし、勝手にどんどん溶けていってしまうクリームソーダみたいに待ってはくれないこともある。そういう関係性が書きたいと思って。それを喫茶店に座ってる視界に広がるもので喩えてみました。
──ほんとにバランスよく、新しいおいしくるメロンパンが表現されていて。最初に峯岸くんが言った通り、5曲ですごく収まりのいいパッケージになってますよね。やっぱり今、ナカシマくんの頭の中がある程度、白紙だからこそ、むしろ今までやらなかったことをいろいろやれるんじゃないですかっていう感じがすごくする。
ナカシマ そうですね。翔雪が言った通りで音楽そのものを楽しむっていうことが純粋にできてるっていうのがあって。それをやっていくうちにまた今までと違った形のおいしくるメロンパンをどんどん確立していって、もっとその世界観を表明する方向に自ずとなるのかなと思うんで。今はほんとにどんどん出てくるものを形にして音楽を楽しんでやっていけたらいちばんいいなと思います。
ヘア&メイク=栗間夏美 スタイリング=入山浩章
おいしくるメロンパンのインタビュー全文は発売『ROCKIN'ON JAPAN』2025年11月号に掲載!
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●リリース情報
10th mini album『bouquet』
発売中【初回特装盤】 2CD(「bouquet」5曲+Bonus Disc 4曲)+Photo Book(56P) ¥6,050(税込)
【初回映像盤】 CD+Blu-ray ¥5,000(税込)
【通常盤 CD】 CD ¥1,650(税込)
●ツアー情報
おいしくるメロンパン bouquet tour - never ending blue -
2025年10月31日(金) ZeppNagoya
2025年11月16日(日) ZeppSapporo
2025年11月28日(金) ZeppDiverCity
おいしくるメロンパン bouquet tour - Re:birth blue -
2026年1月30日(金) 神奈川・川崎CLUB CITTA'
2026年2月8日(日) 香川・高松DIME
2026年2月21日(土) 熊本B.9 V1
2026年2月22日(日) 鹿児島CAPARVO HALL
2026年2月28日 (土) 沖縄 桜坂セントラル
2026年3月6日(金) 兵庫・神戸 Harbor Studio
2026年3月7日(土) 広島CLUB QUATTRO
2026年3月14日(土) 宮城・仙台Rensa
2026年3月21日(土) 石川・金沢EIGHT HALL
2026年3月22日(日) 岐阜・club-G