昨年9月リリースの1stアルバム『WiND』によって音楽シーンでの存在感を増したBillyrromだが、メンバー自身はこの状況にまったく満足などしていない。音楽的な進化を止めることなく、バンドの在り方自体を更新し続ける彼らの「今」を照らし出す本作。希望、葛藤、憤り、願望などが混じり合う、あまりにも赤裸々で真摯な彼らの言葉に耳を傾けてほしい。
インタビュー=森朋之 撮影=三川キミ
──新作EP『Jupiter=』はBillyrromの現在地とこの先のビジョンが明確に示された作品だと思います。EPとしてまとめるにあたって、タイトルを先に決めたそうですね。このタイミングで自分たちが進むための指針みたいなものを作りたかったんですよね(Mol)
Rin(G) シングル2曲(“Funky Lovely Girl”、“Hold Me Tight”)を先に出して、そのあとに決めましたね。
Leno(Key・Syn) Molがアイデアを出してくれて。
Mol(Vo) このタイミングで自分たちが進むための指針みたいなものを作りたかったんですよね。僕なりに考えて、いちばんしっくりきたのが、ジュピター(木星)で。木星は太陽系でいちばん大きい惑星なのに、佇まいはすごく静か。そういう圧倒的な存在感にかっこ良さを感じたし、Billyrromもそうなりたいなと。赤い炎ではなく、青い炎というか、静かだけどすごい温度で燃えている。そういう存在にシンパシーを感じたし、それをみんなにプレゼンしたら「いいじゃん」と言ってくれたので。
Shunsuke(Dr) (Molから)結構長文のLINEが来たんですよ。木星の特徴と一緒に、バンドの現状と向かうべき道も書いてあったんですけど、「まさにその通りだな」と思ったし、なんの異論もなかったです。
Rin 前作のアルバム『WiND』は風がテーマで。次の作品をどういうテーマにするか──自分たちをどう見るか──を考えながら準備していたときに、Molから「『Jupiter』はどうだろう」とLINEが来て。確かにしっくりきたし、タイトルが決まったことでEP全体が見えてきたというか。そうやって意思を共有すると、サウンド面でも言葉(歌詞)を書くうえでもブレなく進んでいきやすいんですよね。特にバンドはそれがないとチグハグになりがちなので。
Leno 最初にLINEを受け取ったときは、正直よくわからなかったんですよ。
Mol 全然まとまってなかったからね(笑)。
Leno そのあと、6人で集まって6時間くらいずっと喋って。EPをどうするか以前に、自分たちがどうなっていきたいかをめちゃくちゃ話したんです。その中で「そうか、『Jupiter』だね」ってなった瞬間があったんですよ。
──6時間、全員がみっちり喋ってるんですか?
Leno みっちり喋ってます(笑)。どうでもいい話を挟みつつ、たまにジャブを打ち合ったり。でも最終的にはひとつにまとまるのがいつもの感じですね。
Mol Lenoはたまにストレートも打ってくるけどね。
──言いたいことはその場で言う、と。
Leno まさにそういうことですね。今までにも何回かあるんですよ、フタを開けてみたら「みんな、いろいろ溜まってたんだな」ってことが。定期的に本音で話し合わないと、向かう先もバラバラになりますからね。
Yuta Hara(DJ・MPC) そのときも「自分たちは何を目指しているのか」をわりと率直に話し合って。そこで再確認できた部分も多かったですね。タイトルにもしっくりきてました。SF好きだったり、宇宙に興味があるメンバーもいるので。
Taiseiwatabiki(B) みんなが言ってくれた通りなんですけど、自分としては「ひとクセ欲しい」という感じもあって。いろいろ話す中で「=」をつけて『Jupiter=』というタイトルになりました。
──「ひとクセ欲しい」と思ったのはどうしてなんですか?
Taiseiwatabiki なんというか……自分たちは「自分たちにしか出せないオリジナリティがある」とわかっているし、曲にしてもファッションにしても、自分たちが武器だと思っていることを全力でやってるんだけど、それがなかなか伝わらないなという感じもあって。「Billyrromは〇〇系」みたいにジャンルで括られてしまったり。そこに対する悔しさもあるし、楽曲はもちろん、アートワーク、タイトルでも自分たちにしかない違和感みたいなものを出していかないと。
──なるほど。こちらから見てると、Billyrromはすごく好調だし、バンドの個性もすごいスピードで伝わってる印象があるんですが、メンバーの実感は違うんですね。
Mol いろんな場所でライブをやらせてもらっているし、好調なのかもしれないですけど、僕らが思い描いているものとは程遠いので。各々の「今はこういうふうに感じてる」、「ここが足りない」という話し合いもよくしてますね。
Rin 自分たちが今どういう状況で、どれくらい聴かれていて、どれくらい広まっているかっていうのは、確かに大事ではあるんですよ。だけど俺らとしては、そこをいちばん気にしているわけではなくて。外からの見られ方よりも、俺らが自分たちをちゃんと表現できてるかどうかなんですよね。デカいフェスに出ても、ちゃんと表現できてなければ納得できないし、そこはちゃんと追求していくべきだと思ってます。
Mol うん。なので「好調だな」とか「不調だな」とかもあんまり考えたことがないんですよ。「最近すごいですね」と言われても特に返す言葉がないというか、「そうなんですよ」とも言えないし、「そうなんですか?」という感じもない(笑)。評価していただけるのはありがたいですけど、Rinが言った通り、僕らが大事にしているのはそこじゃないというのはありますね。
──確かに「曲がバズった」とか「フェスのステージのランクが上がった」を指標にしすぎてる部分もありますからね。
Mol どういう過程でそこに行き着いたか? ですよね。「いかにかっこよく売れるか」ってこともいつも話してます(笑)。
Leno 俺らが思うかっこいい売れ方をしたバンドは何組かいるんですけど、それぞれやり方が違うし、俺らにはどれも当てはまらなくて。「売れたい」は根底にあるんですよ、みんなが聴いてくれるポップスをやりたいのがBillyrromなので。そのやり方をずっと研究している感じですね。
Shunsuke 全員、好きな音楽も結構バラバラですからね。言い方がムズいですけど、アーティストの成り上がり方の好みも変わっていくし、メンバー各々が「これがかっこいいよね」という旬を共有しつつ、それをひとつのコードにしていく感じなのかなと。やってることは変わってないけど、「こうなりたい」は常に変化しているというか。
──「こうなりたい」という理想像を提示していくこと自体、すごくクリエイティブな行為だと思います。EP『Jupiter=』の1曲目“Bon Voyage”も、Billyrromの最新のモードが示された楽曲ですよね。“Bon Voyage”(よい旅を)は自分たちに対しての言葉でもあるし、リスナーに向けているところもあって。最近の自分たちのテーマみたいな感覚(Rin)
Leno “Bon Voyage”はつい最近できた曲で。レコーディング前日まで作業してたし、生まれたてほやほやですね。「ライブでみんな一緒に盛り上がれる、アッパーチューンを作ろう」という話からデモを何曲か作ったんですけど、どれもダサくて(笑)、うまくいかなかったんです。「今日はダメだ、帰ろうぜ」ってなったんですけど、俺とMolがスタジオに残って。そのときにMolが弾いたギターのリフがめっちゃくちゃかっこよくて、そこから広げていったのが“Bon Voyage”の原型ですね。
Mol もともと僕は音楽を感覚的に聴くし、表現するタイプなんですよ。みんなで考えながら作るスタイルも好きだし、そのときのスタジオでもいいアイデアが出てたんですけど、なんとなく心の奥が痒いような感覚があって。「もうちょっと適当でよくない?」というか(笑)。好きな感じで躍起になって弾いたフレーズをみんなが思いのほか気に入ってくれたという感じですね、“Bon Voyage”は。僕が作ったのはイントロからAメロくらいまでで、結構ハチャメチャだったんですけど(笑)、そこはLenoがちゃんと修正してくれて。
Shunsuke MolとLenoが中心になって9割くらいまで固めてくれたので、あとは自分の感覚でマイナーチェンジしていった感じですね。
Yuta Hara DJとしては曲の解像度を上げたくて。声を飛ばすような感じだったり、トリップ感を出しつつ、リスナーの耳の中でそれをどう馴染ませるか?を意識してましたね。
Taiseiwatabiki ベースはめっちゃ難しかったです(笑)。僕のベースの師匠というか、先生がいるんですけど、その人が「いろんなジャンルが混ざってるね」ってビックリしてて。ベースもサウンド全体もそうですけど、聴いても演奏しても楽しい曲になったと思います。
──アフロ系のビートも取り入れてますよね。
Mol 最近、アフロ系の曲をよく聴いてるんですよ。フェラ・クティだったりエズラ・コレクティヴだったり、古いものから新しいものまでいろいろ聴いてる中で、「アフリカ系のアッパーな曲をやりたい」という気分もあって。簡単にできることじゃないし、みんなで食らいついている感じもあるんだけど、結果的にすごく新しいものになったし、ちゃんとJ-POP的に昇華されているのも面白いなと。
──Rinさんは作詞家として、この曲にどうアプローチしたんでしょう?
Rin 曲を作ってるときから「世界旅行みたいな曲だな」と思っていて。ジャンル感もそうですけど、情景がどんどん移り変わって。そういう曲は今までなかったし、そこに対してちゃんと言葉をハメたいなと。『Jupiter=』には自分たちが見ているものに向かって進んでいく、前進しているというイメージがあるし、それを表現したいという気持ちもあったんですよね。“Bon Voyage”には「よい旅を」みたいな意味合いがあるんですけど、それは自分たちに対しての言葉でもあるし、リスナーに向けているところもあって。最近の自分たちのテーマみたいな感覚もありますね。
──4曲目の“Stained Glass”はRinさんの鋭利なラップが炸裂する楽曲ですね。
Rin はい。世の中とか自分たちの見られ方とかもそうですけど、「こういうところは違うと思うし、嫌だと思っている」というのを書いた曲でもあって。だからこそ、メロディをつけるのではなく、ちゃんとラップの曲にしたかったんですよね。あと「ラッパーじゃない奴がラップするな」みたいな風潮も嫌で。音楽ってそういうことじゃなくない?って思うし、そういうのはマジで……ウザいです。
Mol インタビューで聞き慣れない言葉が(笑)。最近のテーマのひとつが「素直」なので、いいと思います。
──(笑)Rinさんのラップ、どうですか?
Mol 最高ですね。Rinは作詞やダビングを自宅でやることが多いんですけど、僕らがスタジオに集まってるときにラップを入れた“Stained Glass”のデモが送られてきて。5人でそれを聴いて「やべえじゃん!」って喚き散らす時間があったんですよ。Rinは普段、あんまり思ったことを言わないタイプなんですけど、そんな奴がラップやってること自体が気持ちいいし、「よし!」という感じです。
──オールドスクール的なスクラッチも効いてますね。
Yuta Hara 個人的に90年代のヒップホップが結構好きで。その時期のDJのプレイも一時期めっちゃ研究してたんですよ。ヒップホップはトラックベースの音楽なので、それをどうバンドサウンドに入れるのが正解なんだろう?というのも考えていて。“Stained Glass”のスクラッチも、最初は「どうなんだろう?」と思ってたんですけど、Rinのラップが入ったことで「これだな」という確信に変わりましたね。
Leno 曲の最後のほうはニューメタルっぽいラップやドラムになってて。トラップも入ってるし、いろんな時代のヒップホップが感じられるのも面白いですね。
Taiseiwatabiki 曲のセクションが変わるパートがあるんですけど、ライブではRinがフリースタイルでラップしてて。毎回「ウェーイ!」ってなりますね。
Shunsuke ライブだとRinのテンションも上がって、音源とはまったく違った感じで。自分もテンションに任せて叩いてるのでめちゃくちゃ楽しいです。