ここ数年のリュクソ、そしてフロントマンの松本ユウが向き合ってきたテーマは、「さらけ出すこと」だったように思う。前作『Terminal』では、皮一枚剥いだ先の冷たさや怒りが、音と言葉の輪郭になっていた。でも『生きるは愛』は、同じ「さらけ出し」でも角度が違う。松本の等身大の人生観も情けない恋愛も先輩バンドへの悔しさも生々しく滲ませながら、全編がびっくりするくらいポジティブで、爆発的な愛で満ちているのだ。なんてったってタイトルが『生きるは愛』。そんなの人生の全部じゃん!とツッコみたくなるほど大仰なのに、この充実作を前にすると「そうとしか言いようがないよね」と屈服させられる。
松本ユウがさらけ出しているのは、日々の実感だけじゃない。星野源や奥田民生への憧れも、曲に求めるサウンドイメージも、今は驚くほどストレートに差し出してくる。受け取ったメンバーはそれに職人的に向き合い、音の強度はさらに増していく。全部出し切って、よりマジなバンドになったリュクソ。このアルバムは、きっと序章にすぎない。
インタビュー=畑雄介
──前作『Terminal』以降、宮田'レフティ'リョウさんや野間康介さん、真部脩一さんなど、様々なプロデューサーを招きつつ、音楽的な進化を重ねてきた2年間だったと思います。まずは、アルバム『生きるは愛』ができあがって、率直にどうですか?どこか欠けていないと、渇いていないと曲はできない、歌の深みは出ないって勝手に思っていたんです。でも、そんなことはまったくなかったって気づけた
ぬん(G) インプット/アウトプットして成長した2年間の集大成のアルバムになったのかなと思います。ギターにおいて、前作『Terminal』までで意識していたのは「コピーしてもらいやすいフレーズ」だったんですけど、今回のアルバムではそれも意識しつつ「好きなフレーズを」という考えが大きくて。今までのアルバムとは違うものになったのかなと思います。
宮澤あかり(Dr) ドラムフレーズの作り方も変わりました。今まではみんなでスタジオで作ってたんですけど──今回プロデューサーさんに言われた言葉でめっちゃ覚えてるのが、「人の意見を気にしすぎなくていいよ」「みやさんは、みやさんなりのいいところがあるから、そこを伸ばそう」ということで。褒めてもらったのがビートだったので、ビートを伸ばしつつ、自分のやりやすいようにできましたね。
堂免英敬(B) プロデューサーさんごとに色が違ったんですよね。それによって曲作りがマンネリ化しなかった印象があって。ベースのフレーズも制作方法をガッツリ変えて、今まではベースを弾きながら作ってたんですけど、今回のアルバムは鍵盤で作った自分が弾けないようなフレーズに追いついていくみたいな感じでした。それがアレンジのバリエーションにも繋がっているのかなって。
松本ユウ(Vo・G) 前作の『Terminal』はタイアップ曲が多かったんですけど、今作ではタイアップ曲が“灯火”(ドラマ『未恋~かくれぼっちたち~』主題歌)だけだから、「自分は何を作りたいんだろう?」って自問自答する日々が長かったんです。で、その根幹まで絞り出した結果、愛が溢れ出してきたんですよね。タイトルも『生きるは愛』にしましたけど、それが僕らがこれから大事にしていくべき言葉なんだろうなって。『四季』(2022年11月リリース)の時も「日常にある小さな愛を掬っていく」みたいなのがテーマではあったんですけど、タイトルにすることはなかったから、初めて僕らのことを知った人にもわかりやすい看板ができた感覚です。
──『生きるは愛』って、まさにリュクソの曲すべてに通底したメッセージですよね。確信に満ちたタイトルを打ち出せるようになったのは、このタイミングだからこそなんでしょうか?
松本 そうですね。アルバムのメッセージとして出した「タワマンも高級時計もいらない。そっと輝く君との日々が、何よりも愛おしいから」って、小っちゃい頃からずっと思っていたことだったんですよ。目の前にある何気ない日常、愛がいちばん大事だなって思ってたんですけど、それを言えるようになったのは自分が……渇かなくなったからなのかなって。
──『Terminal』では愛を際立たせるために、冷たさや毒のある部分もアウトプットしていた印象があるんですけど、今作はとことん愛で満ち溢れていますよね。
松本 幸せな状態でいられてるから、愛をしっかりと言葉にできるのかなと思います。何かにヘイトを向け続けている人生だったけれど、その手前にある確かな愛をしっかり言葉に出したことなかったなって思ったんですよね。どこか欠けていないと、渇いていないと曲はできない、歌の深みは出ないって勝手に思っていたんです。幸せすぎたらクリエイティブなものってできないなって。でも、そんなことはまったくなかったって気づけました。
──1曲目の“Life is beautiful”からその愛が溢れ出ています。この曲はどうやって書いていったんですか?『ポケモン』だったら「キズぐすり」みたいな大事な道具は使わずに最後まで取っておく子だったんですよね
松本 モータウン系のサウンドで仕上げていきたいというところから書き始めて、サビの《Life is tender, beautiful》のところが最初にできました。一般的なウェディングソングで使われるような感じじゃなくて、「おじいちゃんおばあちゃんでも恋をしようよ」みたいなことと、「豪華なものはいらない」というのがテーマで。
──そういった、資本主義的なステータスではなく身近なものを大切にしたいという気持ちは、ユウさんの中でどう育まれたんですか?
松本 昔から、たとえば『ポケモン』だったら「キズぐすり」みたいな大事な道具は使わずに最後まで取っておく子だったんですよね。で、全クリしても使わない(笑)。大学生の時もすごく節約しながら生きていて、服を買うにしてもおじいちゃんまで着れそうな服を買っていて。そういう長く使えるものを生き甲斐にしていたところからきているのかなと思います。
──今作のアートワークはユウさんが生まれ育った祐天寺で撮られていますけど、東京といういろんなステータスが可視化された街で生活しながら、そういう考えに至ったのはある意味では「強さ」だなと。
松本 祐天寺だからこうなったのかもしれないです。中目黒だったら……タワマンだったかも(笑)。祐天寺は、通学中におじいちゃんおばあちゃんと挨拶したり、東京だけど島みたいな場所だったんですよ。
──祐天寺マインドだったんですね(笑)。サウンド面でいうと、この曲はミニマルな反復によって盛り上がって、最後は爆発的な多幸感で終わるという、まさに人生を象徴したような曲です。
堂免 この曲はユウが自分の意思を反映させたデモがあって、肉づけ前から完成していたんです。だからこそ、プレイでは逆に難しいところがあって。今までは、4人の意思がぶつかって生まれる新たなものがリュックと添い寝ごはんだったんですけど、ここまで完成度の高い、ユウの意思が滲み出ている……というかドバドバ溢れている(笑)デモが来てしまっては、いい意味で沿わざるを得なくて。でも、そのフレーズを弾いて自分のものにする作業を通して、プレイヤーとして成長できましたね。
松本 今回、メンバー全員に今までにないくらい──1曲に対して10曲くらいのリファレンスを投げてたんです。「こういう温度感で仕上げたい」があったからこそ、「そうそう、これはこうしたかった!」って、しっかり着地しながら1曲1曲レコーディングできました。
──ソングライターとして、フロントマンとして自信がついたということなんでしょうか。前作までは、ユウさんも気を遣ってコミュニケーションを取りながら曲を育てている印象だったんですけど。
松本 まさに。前作はプロデューサーさんがそんなに入ってなかったので、バンドの余白を残しながら制作していたんですけど、今回は関わってくれる人が増えたぶん、「これがやりたいんだ」という曲の世界観をしっかり共有しなきゃいけない。だからこそ、自分の描きたいものをメンバーや野間さんに話しながら制作できました。
──それが1曲1曲の強度やクオリティに繋がっていると思います。僕が特に好きなのは“渇き”。それこそ、ある意味バンドの曲というより、ひとりのシンガーソングライターが書いたような手触りを感じる曲でした。
松本 この曲は、まずテーマとして、「松本ユウの猫被ってる部分を外そうよ」みたいな(笑)。普段から猫被って生きているので(笑)、それを取っ払って人間性を写し出すというか。“渇き”も“敵いませんかね”も、過去の恋愛を思い出しながら制作していった曲なんです。とにかく、あの時のあの失恋を歌にしてやるぞというマインドでしたね。
──その話を聞きながら、ヒデさんはめちゃめちゃ頷いていましたけど(笑)。
堂免 いやあ、猫被るんですよね(笑)。今まで、猫被ってないユウの良さを隠しているのがもったいないなって思うことも正直あったんですけど、それがいい形に出てきて、松本ユウとしての説得力や人としての魅力に繋がっていっていると思います。
──この曲は、その失恋の物語がサウンドでも表現されていて。演奏はどうでした?
ぬん 歌詞を読みながらだったんですけど──熱をもって弾けたというか。曲に入り込もうと思って入り込むんじゃなくって、勝手に入っていっちゃう曲で、それがニュアンスになってていいなって。
宮澤 私は逆に「みやさん、もっと歌詞見て」って言われて(笑)。サビだからちゃんと盛り上がるとか、Aメロだから静かにとかではなくて──なんていうんだろう?
──ここで視点やシチュエーションが変わるよっていうのを、ドラムで表現しないといけない曲ですよね。
宮澤 ああ、そうです。フレーズ作りよりも、それが大変でしたね。