テーマ選びとして大切にしている基準は、葛藤や矛盾を孕んでいること
──ライトな感触である一方で、歌詞には問題意識が前面に出されてるのが対照的でもあって。このテーマはどのように生まれたんですか?MVを担当してくれた葱びーだまという監督との間で「どんな企画にしようか」というところから始まって、いくつかコンテンツやネットスラングみたいなワードをバーッと出したんですよ。その中で葱びーだまさんが挙げてくださったワードに自分のアンテナが引っかかって、そこから検索をかけたら「FOMO」という言葉に辿り着いて。意味を調べたら、確かにこれは自分にも世間にも言えることだなっていうことで決まりました。
──ワード出しの時点から、何かしらの問題提起はしたかったんですか?やっぱり、ひとつ入り口となる仕掛け──どっかで見たことあるとか、わかる!という共感が作品には大事だと思っていて。そういうワードをセレクトすることが多いかもしれないですね。
──その中で、今回の「FOMO」は、ご自身の感覚としてもこれは向き合っておく価値があると思えたと。テーマ選びとして大切にしているのが、葛藤や矛盾があることで。“フォーモ”で言うと、インスタとかTikTokのトレンドを見てついつい熱中してしまう自分と、友達と語る時に「ああいうトレンドってどうでもよくね?」ってちょっと遠目で見ている自分とがいる。そういう矛盾のあるものって、いいものが生まれやすい種な気がしていて。私の中での基準として、みんながそう思うようなことや、本当に個人にしか刺さらないパーソナルなものじゃなく、そこを行き来する矛盾や葛藤を孕んだテーマが、いいものだと思っているので。そこのバランスがよかったのでチョイスしました。
──東京真中さん自身の感覚としても、ひたすら流れてくる情報や流行を消化して、それに翻弄されたりもすることへの危機感を覚えることもありますか?ありますけど、どうしようもないなと思ってもいます。個人的には新しいことを発明していきたいし、みんなが知らないニッチでかっこいいものが好きなタイプではあるんですけど、みんながみんなそうあってほしいとは言わないというか⋯⋯なんて言ったらいいんだろうな。たとえばトレンドに乗る意識や同調圧力って、原始時代にマンモスを狩るためにみんなで協力していた頃から、遺伝子レベルで刻まれてると思っていて。それはしょうがないし、むしろそうであるのが人間っぽいというか。
いろんな人と曲を書いたり映像を作ったりしていけば、もっと面白いものが生まれるんじゃないかと思ってます
──そもそも大衆に向けて音楽をやること自体がトレンドとは切り離せない部分もあるし、そういう意味でも芯を食った深いテーマですよね。もうひとつ、ボカロの調声──ロングトーンの終わり際のしゃくりとか、そういうところで情感を表現できているのが見事だなと。実は今回、調声は私ではなくて、黒うさぎっていう方にお願いしていて。彼の楽曲を聴いて「ヤバい人がいるな」「この人以上に上手いチューニングを聴いたことない」と思ったので、今回お声掛けをしました。
──そこも、リスナーの心が動くかどうかが最優先というスタンスの表れですね。はい。“ドゥーマー”とか“ブレインロット”のようなローテンションな曲は自分の好きな感じにしたいんですけど、“フォーモ”に関してはもうちょっとテンションが高めだったので。その技術は私にはないし、黒うさぎさんにならお任せできると思って。実際にチューニングしたプロジェクトファイルを見せてもらったんですけど⋯⋯これを自分でやろうとは思わないくらい、まぁこだわりがすごくて(笑)。そう考えると、今回はベースもストリングスも生だし、いろんな人に協力してもらって作った作品ですね。MVに関しては40人くらいいたんじゃないかな。
──え、そんなに。アニメーター30人と、振り付けを考えてくれたダンサーさんに、映像編集の方とか。音楽チームも5、6人はいるので、全体で45、6人。僕がいちばん尊敬しているアーティストのボン・イヴェールはソロから始まったんだけど、そのあといろんなミュージシャンやエンジニアと好き勝手にコライトしたり面白い試みをずっとしているんですよ。そういうコミュニティの中で流動的にアーティスト同士が交流しているのを見て、そういうことができたらなと思って。今回に限らず、いろんな人と曲を書いたり映像を作ったりしていけば、もっと面白いものが生まれるんじゃないかと思ってます。
──発想がどこから出ても、何であってもいいというか。そうですね。スタートとゴールさえ決まれば、道中はいろんな回り道をしながら、波に揉まれながら面白いものができていくんじゃないかなと思いますね。東京真中作品だと“快啖ノススメ”くらいから、お題だけを決めて映像も曲も同時に進める面白さを知ったのかもしれないです。“ブレインロット”は自分で監督して少人数でやりましたけど、これをもっと大人数でやったら面白いだろうなというので、“フォーモ”でやって。
──東京真中は先々を見越したプロジェクトですけど、制作面の変化も経て“フォーモ”を完成させた今、現在地としてはどんなフェーズという認識ですか?まだまだ広めるフェーズだとは思ってます。ようやく走り出したか?みたいな感じで、気を抜くと道を外れちゃうという段階ですね。
──そこから次へ行くために何が必要となってきますか。引き続きもっと多くの方に東京真中を知ってもらう、それと同時にひとりでも多くの方に沼ってもらう(笑)。ライト層とコア層を同時に広げて深めることをやっていかないと、と思ってます。ただ、ネット上のコメントの傾向的には、ちょっと前まではコンテンツに対して「ヤベえなこの曲」という反応だったのが、“フォーモ”からは「東京真中大好き」みたいなコメントがいろんな言語であったりして。あとはXのスペースを聴きに来てくれる人が増えたり、そうした時にちょっとずつですけど、東京真中というアーティストを好きになってくれてることを実感してはいます。
──このスタイルで、その辺を歩いてる人たちがみんな知ってるというところまで行けたら、夢がありますよね。顔とかは知らなくても曲はみんな知ってる、みたいな。すれ違った人が、いつか出す東京真中グッズを身に着けてくれていたりとか。それが頻繁に起こるくらいまでは行かないといけないと思ってるので、それに比べたらまだまだ駆け出しです(笑)。
──次の一手はもう考えているんですか?2028年の始まりくらいまでは、もう計画は立てていて。その中では、もちろんボカロ曲も出しつつ、フィーチャリングもやってみようかな?というのもあって。また新たな試みができると思いますけど、コアの部分や優先順位は変わらず、道のりが少し変わるだけかなと思ってます。