──その次が新曲の“EMPTYISM”。この爽やかなソウルっぽいフィールにもレトロリロンの良さが滲み出ていますが、そこに対しても、涼音さんの《本当はもっと/気にせず吐き出したい》という歌詞だったり、《「こんなはずではなかったよな」/そう嘆くなら今、覚悟して引き返せ》っていう歌詞や、その歌声の強さにも引き込まれました。涼音 今作では強い曲が並んでいたので、もともとは少し抜け感のあるものが欲しいと思って作り始めたんです。最初は昭和っぽいサウンド感を目指してたんですけど、気づいたら全然違うものになっていました(笑)。歌詞を書くときに考えていたのは⋯⋯満たされて終わりになっちゃう人って結構いますよね。本来もっと先があるはずなのに、今に満足して楽しいみたいなことを優先して、そこから先に進もうとしないみたいな。それがダメってことではないけど、自分は満たされないことのほうがずっと大事だと思っていて。たとえば、アーティストだからという理由で、何も成果を残していないのに特別扱いをされたりすることに違和感を感じるんです。もちろんめちゃくちゃ成果を出して大成している人ならわかるんですけど、自分たちはまだまだ途中。そこで満たされたくないんです。満たされてしまうと、いつしか自分のことを特別だと勘違いして、書く曲が死んでしまう気がしていて。そういう気持ちを“EMPTYISM”には込めていて。死ぬ瞬間まで音楽を続けるために、一生満たされなくていいと思っているんです。そう思って書いた曲です。──《醒めないでいよう絶対/ときめいていよういっぱい》っていう歌詞がすごくいい。ここに全部の思いが集約されてるなあって。永山さんは、今涼音さんの言ってたことについてどう感じますか? 共感しますか?永山 共感というより、“EMPTYISM”は、今の自分を肯定してくれる感じがします。バンドを始めて6年、楽器を始めて10数年、僕は自分の音楽の実力にずっと飢えているんですよ。なんならその飢えを探しているみたいなところもある。そういうのってちょっと苦しい作業でもあるし、これはほんとに正しいのかな?って思うときもあって。でも、この曲を聴いていると、そういう飢えてる状態がすごくいいことだと思えてくるんですよね。miri 「満たされてない」って、ネガティブなイメージがあるけど、必ずしもそうじゃないんだなって。満たされないからこそ追い求め続けられる。だから人が何かを追い求めてる姿は輝いている。そういうことをこの楽曲に感じました。そのキラキラしたところがサウンドにも出ているし、歌詞とリンクして面白いなと思います。──そして“Dear”。これはドラマ『再生のウズメ』のオープニングテーマとして書かれた楽曲ですね。ラブソングであり、涼音さんの人生における他者との繋がりを歌った曲のようでもあって。涼音 まずこのお話をいただいて、脚本を読ませていただいて、今回は人の温度感が見えるものを作りたいなと思って。とはいえ作品をそのまま曲に落とし込むというのは自分のポリシーに反するので、それをどう表現しようかと。作品では、主人公がある人との出会いをきっかけに、ずっと停滞していた人生を少しずつ変化させていくんですけど、作品を読ませていただいて、人生って何がどうきっかけになって変わるかわからないし、誰と出会うかというのはすごく重要だと思ったんです。自分もこれから先出会う人によって、今考えてることなんか、もしかしたら180度変わってしまうかもしれない。僕がこれまでに書いてきた曲って、人と出会ったことによって起こるマイナス的事象を自分でどう解決していくかというものがほとんどだったんですけど、人と出会ったことによって発生する温かさみたいなものも表現したかったんです。特に今回のEPでは前半3曲があまりにも強すぎるので、少し温かいものも入れたいというのもあって。なのでこれはまあ、ラブソングです。──レトロリロンとしてはラブソングのアプローチは珍しいですよね。タイアップだからこそ真正面から取り組めたというのもありますか?涼音 むしろありがたかったなあと。1曲目の“AMANO-JAKU?”にある通り、僕はラブソングを書く必要はないとずっと思っていて。なぜならすでに多くのアーティストの方が素晴らしいラブソングを書いていらっしゃるし、自分に書けることは他にあると思ってるので、こういうスタイルで進んできた。でもこういう機会をいただいたからこそ書いてみようという心情になれたし、このバンドにとってラブソングが必要ないわけではないので。『コレクションアローン』ではそういう他者に向ける感情みたいなものは書けなかったので、今作は外側に向けたものをもうひとつ入れてみたいなと。──ピアノサウンドが印象的な曲でもあり、miriさんの演奏も素直に美しいサウンドで表現されていますね。miri まさに。フレーズ自体も、みんなでセッションしてアレンジを進めていく中で出てきた音を大事にして完成させたという感じがあります。いつもなら私は一度家に持ち帰ってフレーズを整理するんですけど、この曲は整理する必要がなかったです。永山 僕も同じ感じでした。タイアップのお話をいただいて作品を読んで、自分とも重なる部分があったからか、曲の温度感みたいなものがすぐに感じ取れたというか。死ぬ瞬間まで音楽を続けるために、一生満たされなくていいと思っている(涼音)バンドを始めて6年、楽器を始めて10数年、自分の音楽の実力にずっと飢えている。なんならその「飢え」を探しているみたいなところもある(永山)
【インタビュー】3人が踏み出す新たな一歩──揺るぎない覚悟のEP『アブノーマルライフハック』
2026.10.09 18:00
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