ここ3〜4年ほどイキのいいダンス・バンドが多数出現してきた中でも、フロア・アンセムと呼べる曲を一発だけでなくキチっと何曲も産み落としてきたバンドというのは、今あらためて振り返ってみると、そう多くないといえるだろう。そういう意味では、今夜2度目となる単独日本公演を果たしたザ・ウィップは、ダンス・フロアの一夜の流れの中で、フックとなる佳曲の数々を産み出してきた、“実力派”と言って差し支えのないバンドだ。
2006年6月の“トラッシュ”発表以来、待ち望まれていたデビュー・アルバム『X・マークス・デスティネーション』を今春発表。日本デビュー前の2007年夏フジ・ロックに出演、その後12月に代官山UNITで単独公演を行っている彼らだが、アルバムを発表後初の日本公演となる。
ザ・ミュージックの日本ツアーに帯同していた彼ら。RO69内のrockin’on編集部ブログなどでも触れられているとおり、新木場コーストでのザ・ミュージックのフロント・アクトを務めた際にも兆候があったようだが、今夜もボーカルのブルースは喉の調子が思わしくなく、声が枯れてしまってしまっていて、時折苦しそう。ただしもともとの歌声もダミ声っぽいところがあるので、かえってその枯れ声がハマっている瞬間も多々あり。
2000年代後半デビュー組ダンス・バンドのお約束ともいえる、ネオン・カラーの柄入りのフーデッドなどあからさまに記号的なユニフォームとも無縁の4人。なにしろ彼らの地元はあのマンチェスターなのだ。いわゆるマッドチェスタームーブメントの全盛期の現場は知らずとも、ダンスが息づく街の洗礼を受けて育っている。体の奥底に、当たり前のものとして、ダンス・ビートが脈打っている人たちの音とはこういうサウンドのことを言うのだろう。「今マンチェっぽい音をやるから逆説的に新しい」とかそういうギミックではなく、「自分たちがカッコイイと思うビートとロックをやったらこうなるしかないんだ」という超然とした芯の強さがある。加えて、哀愁あるせつないメロディ・ラインや、グっとくるシンセ・フレーズなど、確実にダンス/エレクトロ好事家のツボを刺激するサウンドを続々産み出しているところは、職人的でもある。鍛練の結果生み出されたサウンドなのだ。
演奏面でも前回の来日公演時は、メンバー全員の音がかみ合わず、もたついて、変な間ができてしまう瞬間が多々見受けられた。だが、今夜は刻まれるビートはぐっとタイトで、力強い。チーム・ワークや各人の演奏に安定感がある。また、楽曲のアレンジにもフロアの温度を下げないように緻密にシンセ・フレーズなどが仕掛けがあり、このあたりは、デビュー・アルバムの制作にかかわったジム・アビス(カサビアンやアークティック・モンキーズのプロデューサー)の尽力もあるのだろうが、まさに成長ぶりをみせてくれたライブだったと思う。ラストを飾ったのは“トラッシュ”。フロアは当然の爆発ぶりだったけど、彼らならこの先“トラッシュ”を凌駕するような看板曲をまだまだ生み出せるのではないかと思う。ひそかに期待しています。(森田美喜子)